・・・万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし、――」 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら落ちて来た紙切れがあります。「おや、紙切れが落ちて来たが、――もし・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・をした、見ると大きな巾着茄子を二つ三つ丸ごと焼いて、うまく皮を剥いたのへ、花鰹を振って醤油をかけたのさ、それが又なかなかうまいのだ、いつの間にそんな事をやったか其の小手廻しのえいことと云ったら、お町は一苦労しただけあって、話の筋も通って人の・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・「あんな者でも、おってくれれば事がすんで行くけれど、おらなくなれば、またその代りを一苦労せにゃならん。――おい、お君、馬鹿どもにお銚子をつけてやんな」 お君は、あざ笑いながら、台どころに働いている母にお燗の用意を命じた。 僕は何だか・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
出典:青空文庫