・・・歳暮大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹の広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉の飾、蜘蛛手に張った万国国旗、飾窓の中のサンタ・クロス、露店に並んだ絵葉書や日暦――すべてのものがお君さんの眼には、壮大な恋愛の歓喜をうたいながら、世界のはてまでも燦・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・『万国心をあわせてな』と天理教のお歌様にもある通り、定まった事は定まったようにせんとならんじゃが、多い中じゃに無理もないようなものの、亜麻などを親方、ぎょうさんつけたものもあって、まこと済まん次第じゃが、無理が通れば道理もひっこみよるで、な・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ここにおいてマルクスは「万国の労働者よ、合同せよ」といった。唯物史観に立脚するマルクスは、そのままに放置しておいても、資本主義的経済生活は自分で醸した内分泌の毒素によって、早晩崩壊すべきを予定していたにしても、その崩壊作用をある階級の自覚的・・・ 有島武郎 「想片」
・・・泰山前に頽るるともビクともしない大西郷どんさえも評判に釣込まれてワザワザ見物に来て、大に感服して「万国一覧」という大字の扁額を揮ってくれた。こういう大官や名家の折紙が附いたので益々人気を湧かして、浅草の西洋覗眼鏡を見ないものは文明開化人でな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・国に一鉱山あるでなく、大港湾の万国の船舶を惹くものがあるのではありません。デンマークの富は主としてその土地にあるのであります、その牧場とその家畜と、その樅と白樺との森林と、その沿海の漁業とにおいてあるのであります。ことにその誇りとするところ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・其一例を示せば、 我日本国の帝室は地球上一種特異の建設物たり。万国の史を閲読するも此の如き建設物は一個も有ること無し。地上の熱度漸く下降し草木漸く萠生し那辺箇辺の流潦中若干原素の偶然相抱合して蠢々然たる肉塊を造出し、日照し風乾かし耳・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・その他の品物を検査し、また、長崎からシロオテに附き添うて来た通事たちを招き寄せて、たとえばいま、長崎のひとをして陸奥の方言を聞かせたとしても、十に七八は通じるであろう、ましてイタリヤと阿蘭陀とは、私が万国の図を見てしらべたところに依ると、長・・・ 太宰治 「地球図」
・・・天然物保存地帯として少なくもこの大陸内地の大部分を万国協定で指定してほしいと思うのである。 獅子のいる草原の中にどうも地震による断層らしく見えるものが写っている。あとで地震学者に聞いてみると、あのタンガニイカ湖付近には実際大地震による断・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この数は二、三、四、五、六のどれでも割り切れるから、一年おきの行事でも、三年に一度の万国会議でも、四年に一度のオリンピアードでも、五年六年に一度の祭礼でも六十年たてばみんな最初の歩調をとり返すのである。その六十年はまたほぼ人間の一週期になる・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・「白熱せる神宮競技」。「白熱せる万国工業会議」。こういうトピックスで逆毛立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色蒼然たる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。そうして過去のベ・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫