・・・そこで使いなれた智識感情といえる語を用いていわんには、大凡世の中万端の事智識ばかりでもゆかねば又感情ばかりでも埒明かず。二二※が四といえることは智識でこそ合点すべけれど、能く人の言うことながら、清元は意気で常磐津は身があるといえることは感情・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・つまり、社会万端の施設も、民主の方法で利用されるものでなかったからでしょう。 せまい、個人的なまとまりよさだけを眼目とする躾は、社会全体の幸福を目ざす、大きい着眼点に移されなければなりません。 愛の躾は、社会に対する愛と識見の、・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・という一字で、万端をしめくくられて来ました。けれども、今日になって、その時をかえりみれば、「私」を滅して、命までを捧げるべき「公」と云われたものの本体は、たった一握りの特権者たちの、「私」の利益であったことが明瞭にされました。 自分・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・この複雑多岐で社会の事情万端数ヵ月のうちに大きく推移してゆくような時代に生き合わせて、受け身に只管失敗のないよう、間違いないようとねがいつつ女の新しい一歩を歩み出そうとしたって、自身の未熟さを思えばそれは手も足もどこに向って伸してよいか分ら・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・主義と云われたのは、機械的、反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で、と、現代の情勢に万端の責任を転嫁して、卑俗な事大主義の生・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ そのような日本式談合万端にこそ抵抗しているわれわれではないだろうか。世界のどこの反ファシズム文学者の会合に、そこに集ったひとたちの日常に不足しているとも考えられない一本二本の徳利がなければ座がもちにくいと考えられたためしがあったろう。・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・……まだ砂が出るので、こうやって開けてあるが、もう一週間ぐらいのうちに、万端設備が終るでしょう」 また労働者と話し、再び自分たちに向って、仕事の価値を知っている者だけの示す叮重さで、「白石油のこれ位純粋なのは珍しいです。今われわれは・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・「貴方は万事万端その調子で切りさばいてでしょう? 中々どうしてどうして。」「そんな事って。」 篤は間の悪い顔をして笑った。「まるで違う事ってすけどねえ、 あんまりこの頃あがりつづけたからこんどは少し間を置いてからに仕・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・そのような日暮しから受ける心持、そのような日暮しに向ってゆく自分の心の動きよう、そういう生活万端の在りようと自分のつくる文学のありよう、そういう関係が深く感情の底にまでふれて探られ、見直され、整理され、そこで初めて人間精神の経つつある歴史と・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・リアリストの眼はその急所を掴む眼であり、その眼は社会の現象万端を動的な発展的なものとして観ることの出来る世界観によって培われるのではあるまいか。 私は、自分一人の問題に就いて与えられた質問から拡って、リアリズムの問題にまで触れているので・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
出典:青空文庫