・・・ 万葉集を読んだ人は、誰でもあの詩歌の世界で、実にすなおに率直に男女の心持が流露されているのを知っているが、あのなかには沢山の可愛い女、美しい女、あでやかな女を恋い讚えた表現があるけれども、一つも女らしい女という規準で讚美されている女の・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・私は昔万葉集や金槐集などを読み、なかなか感心したものです。きょう、短歌を作ろうとする人々にとって、これらの古典はやはり読まれ、研究されるべきものでしょうが、それは全くこの『集団行進』に集まっているような作者たちが生活そのものによって現代の社・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ 万葉集の立派な写本は宮内府図書寮とかにあってお歌所の長である佐佐木信綱博士しか見られないものだったそうだ。マチスやユトリロの名画は、日ごろは特定の個人に秘蔵されていて、盗まれ横領にあった騒ぎではじめてわれわれ人民の耳目にふれて来る。旧・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・ この年は佐佐木信綱博士の万葉集校訂の大事業が完成して注目をひいたが、従来、国文学者は不思議にも日本の国文学として今日の文学作品までがその研究の分野にとり入れられなければならないという、極めて当然な動きから、かたく身を退いて来た。彼等の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 自然の描写が、我が日本文学の中で、どのように推移しているかということは、われわれの深い興味をよびおこすのである。万葉集の中にうたわれている大らかな明るい、生命の躍動している自然的な自然の描写が、藤原氏隆盛時代の耽美的描写にうつり、足利・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・わたしたちは万葉集というものをもっている。万葉集は当時のあらゆる階層の女の人のよい作品を集めている。女帝から皇女、その他宮廷婦人をはじめ、東北の山から京へ上った防人とその母親や妻の歌。同時に遊女、乞食、そういう人までが詠んだ歌を、歌として面・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・号令をかけて馬にのる人々も、文学的な感情をゆたかにして古事記や万葉集を読むとしたら、結構なことと云わざるを得ないのであるけれども、文化の全面を社会の現実の有様と照らしあわせて眺めると、理解はしかく皮相、単純なところに止まっておられないと思え・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・生活と文学のこの関係は万葉集の時代から今日までつづいている。だから歴史的にみてくると、文学と生活はとりもなおさず階級社会とその文学史のようなものになりかねない。ところでその社会と文学との関係については第二巻で蔵原惟人が「文学と世界観」を書い・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 日本文学が、万葉集時代、源氏、枕草子その他の王朝文学から「和泉式部日記」「更級日記」「十六夜日記」の母としての女性、徳川時代の「女大学」の中の女の戒律がその反面に近松門左衛門の作品に幾多の女の悶えの姿を持っていることは、意味深い反省を・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・ 万葉集には、名もない防人の歌、防人の妻や母、遊行婦女の歌なども、有名な乞食の歌などと共に集録されて今日に伝えられている。けれども、藤原氏以後、上層の支配者の文化は、すっかり一般人民の内面生活から遊離して、文学的な集というようなものには・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫