・・・なぜといえば、その都市の人々は必ずその川の流れに第三流の櫛形鉄橋を架けてしかもその醜い鉄橋を彼らの得意なものの一つに数えていたからである。自分はこの間にあって愛すべき木造の橋梁を松江のあらゆる川の上に見いだしえたことをうれしく思う。ことにそ・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・履歴書を十通ばかり書いたが、面会の通知の来たのは一つだけで、それは江戸堀にある三流新聞社だった。受付で一時間ばかり待たされているとき、ふと円山公園で接吻した女の顔を想いだした。庶務課長のじろりとした眼を情けなく顔に感じながら、それでも神妙に・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ 勿論、大新聞は年に何万円かの広告料を貰っている手前、そんな記事はのせたくものせなかったから、すべて広告を貰えない三流新聞に限られていたが、しかし、お前は狼狽した。「――どうしましょう?」 そう言って、おれの顔を見たその眼付きに・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・まだしもオー・ヘンリーやカミの方が才能があるが、しかし、オー・ヘンリーやカミといえども二流、三流である。私はうぬぼれかも知れないが、オー・ヘンリーやカミやマーク・トゥエーンよりはましな小説が書けると思っている。 私がマーク・トゥエーンに・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・と言いながら机の上の茶呑茶碗にウイスキイを注ぎ、「昔なら三流品なんだけど、でも、メチルではないから」 彼はぐっと一息に飲みほし、それからちょっちょっと舌打ちをして、「まむし焼酎に似ている」と言った。 私はさらにまた注いでやりなが・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・あなたともあろうものが、あんな馬鹿話をなさるのはおよしなさい、お客様に軽蔑されるばかりです、もっと真面目なお話が出来ないのですか、まるで三流の戯作者みたいです、と家内から忠告を受けた事もあるのですが、くるしい時に、素直にくるしい表情の浮ぶ人・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・東京の三流の下宿屋の薄暗い帳場に、あんなヘチマの粕漬みたいな振わない顔をしたおかみさんがいますよ。あたしには、わかっている。あんなひとこそ、誰よりも一ばんお金をほしがっているんだ。慾張っているんだ。ケチなんだ。亭主よりも親よりも、お金だけを・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・としての映画が始まって以来、おそらく常套的に慣用されて来た技巧であって、それがさまざまな違った着物を着て出現しているに過ぎないものであって、こういうことはまた、自分自身の頭を持って生まれることを忘れた三流以下の監督などが、すぐにまねをしたが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・もっと機械的な、張りこの虎めいた勇ましい人物でも演ずるのであったら、その若い俳優はもっと空々しく、自分からつきはなし、型で、三流的まとまりのついた芝居をやったかもしれない。ところが、その俳優の役は、生活態度のふっきれない、決断のしにくい、社・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫