・・・葛上亭長、芫青、地胆、三種合わせた、猛毒、膚に粟すべき斑はんみょうの中の、最も普通な、みちおしえ、魔の憑いた宝石のように、ぎらぎらと招いていた。「――こっちを襲って来るのではない。そこは自然の配剤だね。人が進めば、ひょいと五六尺退って、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ただ馬琴の作は上記以外自ら謄写したものが二、三種あった。刊本では、『夢想兵衛』と『八犬伝』とがあった。畢竟するに戯作が好きではなかったが、馬琴に限って愛読して筆写の労をさえ惜しまず、『八犬伝』の如き浩澣のものを、さして買書家でもないのに長期・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ その上に頗る多食家であって、親しい遠慮のない友達が来ると水菓子だの餅菓子だのと三種も四種も山盛りに積んだのを列べて、お客はそっちのけで片端からムシャムシャと間断なしに頬張りながら話をした。殊に蜜柑と樽柿が好物で、見る間に皮や種子を山の・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ それならどういう風に関係が有ったろうかといいますと、便宜上その答案を三つに分けて申しますが、馬琴の小説中の人物は大別すれば三種類あるのでして、第一には前に申しました一篇の主人公や副主人公やその他にせよ、とにかくに篇中の柱たり棟たる役目・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・例えばファン・デル・ワール等の理論に従えば、ガス体の圧を与うればその体積には三種の可能価ある事となる。この理論の当否は問わざるも、抽象的にこの事は可能なるべし。今かくのごとき場合にも天然現象は必ず単義的に起るとすれば、それは如何なる理由によ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ この甲乙丙三種の定型はそれぞれに長所と短所をもっている。甲はうっかりにせ物に引っかかるような心配はほとんどない代わりに、どうかするとほんとうに価値のある新しいいいものを見のがす恐れがある。既知の真実を固守するにのみ忠実で未知の真実の可・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 以上はただ典型的な二、三種のものについて、極めて概括的な考え方をしてみたに過ぎないので、実際の作品について云えば、種々複雑な問題が起るのは当然の事である。従って前述の考えにも幾多の変更や洗煉を加える必要の起る事も勿論である。ただこうい・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・立ち葵や朝顔などが小さな二葉のうちに捜し出されて抜かれるのにこの三種のものだけは、どういうわけか略奪を免れて勢いよく繁殖する。二三年の間にはすっかり一面に広がって、もうとても数人の子供の手にはおえないようになってしまった。これらの花が土地の・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ その頃発行せられていた雑誌の中で、最も高尚でむずかしいものとして尊ばれていたのは、『国民の友』、『しがらみ草紙』、『文学界』の三種であった。まだ病気にならぬ頃、わたくしは同級の友達と連立って、神保町の角にあった中西屋という書店に行き、・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・ この紀行が『二六新報』に出た時には三種の紀行が同時に同新報の上に載せられた。その内で世間の評判を聞くと血達磨の九州旅行が最も受けが善くて、この徒歩旅行は最も受けが悪いようであった。しかしそんな評は固より当てにならぬ。むしろ排斥せられた・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
出典:青空文庫