・・・千葉のファシスト地下組織は、もと上海特務機関中尉である大島軍司という人物を中心にして、千葉県知事、市長、成田山の僧正、千葉市警察署長、その他各地の警察署長とれんらくして、大島は警察パス、外務省パスを所持して、現在は法務庁に籍を持っているそう・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そのようにして歩き出したこの作家は「上海」を意味深い転期として、いわゆる「流行」にまけることを潔しとせず、プロレタリア文学に反撥する強力な緊張で「寝園」「盛装」に到る境地を築き上げて来た。彼の見事さというものは、謂わば危くも転落しそうに見え・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・国府津へ国男が父親になった記念に大変いいラジオをすえつけて上げたので親父さんはもう、東京だと思って聞いていたらそれは上海であったというようなことがなくてすみます。箱根山の関係で、これまでのでは調子がわるく、うまくきこえるのは却って遠いそっち・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 帝国主義のレンズが集中している上海に入った中共の解放軍が、その行動の実際で日本の新聞にさえ一行のデマゴギーを報道流布することを許さなかった事実は、真によろこばしい、そして敬服すべきことだった。沈毅、純朴な若い中国の人民のまもりてたちを・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ たしかに、東京はおそろしいところになっている。上海がかつて国際犯罪都市であったように、ブダペストが国際スパイ都市であるように。けれど、そういう犯罪的ファクターは、都民一人あまさず指紋をとることで絶滅することができないものであることも明・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 中国の謝冰瑩という、連合国の代表で来ておった人が、上海へ帰りまして、「日本の人は立派です。忍耐強くて立派ですが、日本の人はお魚をあまり食べすぎるらしい、魚は口をききません、口をきかない魚をあまり食べ過ぎるから、日本の人はあまり口をきか・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・その外国の女を見て「из 上海」 その時大きナ菓子屋の軒先にパッと百燭の電燈がともった。 中央電信局の建築場では、労働者と荷橇馬が出切った木戸を、つけ剣の銃を手にもった若い番兵がしめて居る。彼の頭の上につられて居る強力な電燈・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・ラジオはその時、上海を中心として全生産が回復したというよりも、むしろ増大したことをつげました。同じ夜のモスクワ放送は、ソヴェト同盟の第三十二周年革命記念の前夜祭で建設を語る演説と心を魅する音楽を送りだしました。その夜に、わたしたち日本の八千・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・雲が薄くなり、稀に、光った雨脚が京都と同じように乾きの早い白い道に降る。上海などへ連絡する船宿の並んだ通りをぬけ、港沿いに俥が駛る。昼ごろの故か、往来は至って閑散だ。左側に古風な建物の領事館などある。或角を曲った。支那両替屋の招牌が幌を掠め・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ すると、俥夫達の背後に立ち、頻りにYを観察していた大兵の青帽をかぶった詰襟の案内人が、「上海へおいでですか」と訊ねた。我々は苦笑した。長崎というと、私共は古風な港町を想像し、古びながら活溌に整った市街の玄関を控えていると思って・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫