・・・祖母さんに、どんな事が有ッても其様な真似は私はしない、私のやれる丈けやって妹と弟の行末を見届けるから心配して下さるなと言切って其時あんまり口惜かったから泣きましたのよ。それからね寧のこと針仕事の方が宜いかと思って暫時局を欠勤んでやって見たの・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・すると、正直に先生に其の旨をいって御尋ねする、それなら何を読んだら宜敷かろうと、学力相応に書物を指定して下さるといったような事で誰しも勉強したものです。 そういう訳で銘々勝手な本を読みますから、先生は随分うるさいのですが、其の代り銘々が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・客と主人との間の話で、今日学校で主人が校長から命ぜられた、それは一週間ばかり後に天子様が学校へご臨幸下さる、その折に主人が御前で製作をしてご覧に入れるよう、そしてその製品を直に、学校から献納し、お持帰りいただくということだったのが、解ったの・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・内儀「仕様がないたって、あなた何へいらっしゃいましよ、あの石川様へお歳暮だって入らっしゃると、いつでも貴方に千疋ぐらい御祝儀を下さるじゃアありませんか」七「他人のものを当にしちゃアいかん、他人のものを当にして物を貰うという心が一体賤・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・ゆうべは俺もよく寝られたし、御霊さまは皆を守っていて下さるし、今朝は近頃にない気分が清々とした」 おげんは自分を笑うようにして、両手を膝の上に置きながらホッと一つ息を吐いた。おげんの話にはよく「御霊さま」が出た。これはおげんがまだ若い娘・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・「町の方でポツポツ見に来て下さる方もあります……好きな人もあるんですネ……しかし私はまだ、この土地にはホントに御馴染が薄い……」 学士は半ば独語のように言った。 正木大尉が桑畠の石垣を廻ってニコニコしながら歩いて来た。皆な連立っ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・其処で、彼女は仕方なく天地をお創りになった神に向い、どうか、此世にない程の力を授けて下さるように、驚くべき奇蹟で、プラタプに「や! 此がお前に出来ようとは思わなかった」と、喫驚、叫ばせてやることが出来ますように、と祈るのでした。・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・剃ってあげましょう、と親切に言って下さるので、私は又も断り切れず、ええ、お願いします、と頼んでしまうのでした。くたくたになり、よろめいて家へ帰り、ちょっと仕事をしようかな、と呟いて二階へ這い上り、そのまま寝ころんで眠ってしまうのであります。・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・もしこれから何か御用がおありなさるなら、その男をお使い下さるようにお願い申します。確かな男でございます。」 おれの考えは少々違っていた。果せるかな、使は包みを一つ取り出して、それをおれに渡すのである。 門番はこう云った。「勲章でござ・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と、こう皆さんが夫々叮嚀な御挨拶をなすって下さる。それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござ・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫