・・・ 失業者は二月下旬に五百八十三万人と云われた。これは、日本の失業統計のレコード破りである。これだけの人数が、みんな一ヵ月世帯主三〇〇円、家族数一人につき一〇〇円ずつの預金をどこからか下げて、あらゆる三倍ずつの生計費をまかなって暮し、花見・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・そして、書きはじめて見ると、箇々別々に書いた感想はそのまま役に立たぬことが分り、七月下旬から八月一杯、私はすべて、ほかの仕事をことわって幼年時代から全く新しく書きはじめたのであったが、まだ健康がすっかり恢復していなかったため、過労になって、・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・前年五月中旬検挙された百合子は、十月下旬治安維持法によって起訴され、市ヶ谷刑務所未決に収容された。一九三六年一月三十日、父中條精一郎が死去した。百合子は五日間仮出獄した。ふたたび市ヶ谷にかえり予審中、二・二六事件が起った。三月下旬、保釈とな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 栗林氏へお金を送ったのは、九月下旬か十月上旬でしたろう。受取りを調べると五十二円二十五銭で、私は五十三円送ってお釣りをもらったと覚えています。二月分から九月分までのうつしで全部で六通です。大泉という人の公判調書二通が一番新しい分です。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 講和の出た去年の十一月下旬、新聞が集めたアンケートでは面白い事に、警視総監のような政府の役人と株屋と徳川夢声等が単独講和でも早いほうがよいという回答をしています。そして石川達三、石坂洋次郎、丹羽文雄、その他の作家や学者のある人は、全面・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ 先々月、六月の下旬、祖母の埋骨式に、田舎へいっていた。長年いきなれた田舎だが、そこの主人であった祖母が白絹に包まれた御骨壺となり、土地の人がそれに向って涙をこぼすような工合になると、却って淋しい。人々が集り、暑い夏を混雑するのも悲しい・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・が、書き終えられたのは一九四八年三月下旬であった。それから後こんにちまで五ヵ月ほどの間に、日本の社会情勢と、文化の状況とは一つの新しい段階に入った。したがってこの報告がより完全なものとなるために、以下の追記を必要とする。 本年度・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・そこで、春さむい三月下旬のいま、新しく二千九百二十円の水準に向って、全勤労階級が種々な方法でその新給与の実現をもとめている。二千九百二十円で、二千四百カロリーはとれない。去年十二月下旬日本銀行の紙幣発行高は、凡そ二〇〇〇億円であった。この二・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
私が、初めて瀧田哲太郎氏に会ったのは、西片町に在った元の中央公論社でであった。大正五年の五月下旬であったろうか、私は坪内先生からの紹介で二百枚ばかりの小説を持ち、瀧田氏に面会を求めて行ったのです。 留守かと思ったら、幸・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・十月の下旬になると、周囲がいかにも華やかな、刺戟の多い気分になって、書斎の中に静かに落ちついていることができなくなった。これは飛んだところへ引っ越して来た、と幾分あわてるような気持ちにさえなった。 そういう紅葉の代表的なのは楓の紅葉で、・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫