・・・ 旅商人の脊に負える包の中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚、瑪瑙、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。写らねばシャロットの女の眸には映ぜぬ。 古き幾世を照らして、今の世にシャロットにあ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・が、娘たちがそのことを知ったのは再び彼女が出発した後、偶然化粧室で血のついた下着を見つけ、同時に新聞がそのことを報道したからであった。彼女は昔からそうであったように、自分の身について起るかも知れない危険とか激しい疲労とか、その躯におよぼして・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・封印がしてあって、靴、書類カバン、セル下着類が出ました。中に裏だけの着物が一枚あり。表をはがして着ていらしったのであろうと理解しました。失われた時計については光井叔父上がたのんだ人からいろいろ手続中の模様ですが、役所ではその品物について一々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・月曜日に毛糸の足袋と下着類と戦争論その他を入れます。私はこの頃になって、もう一遍一寸メーテルリンクをみて、何か発見して見たいと思うことがあります。それは、これまでの作家が運命というものについて、実に多く書いているが、メーテルリンクは彼の神秘・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・あなたのジャケツは私の唯一の避難用下着だから、私ので送れるのを工面致しましょう。これで誘われて、世田谷の子供達にも毛糸をやろうと思いつきました。和服で育っていても調法だから。そちらへも広島から隆治さんの葉書はきましたか。こちらへ一昨日もらい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・たとえ一人いる室でも、女は、自分の体の形を説明しているような下着を、こういう向きには干さない。反対に、一枚の布として見える向きにかえる。自然にそうする。自然にそうするところに女の生きた官能も感覚もある。 佐多稲子さんのところに、何年も前・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・ 先ず火曜日は、先週の日曜の朝代えた下着や、敷布や襯衣その他の洗濯日、午後からは訪問と云う日割です。大きいものは一まとめに袋に入れて、朝来ることに定めてある洗濯屋に渡し、小さい手巾とか、婦人用の襟飾、絹のブラウズと云うようなものは、皆、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ それでも夏はそれほどひどくは気にならないけれど冬羽織着物、下着、半衿とあんまり違う色を用うのは千世子は好いて居なかった。 紫紺の極く濃いのと茶っぽい色とを好いて居る千世子が夏の外出に、白い帯(に赤味がかった帯をすると気がさす様で仕・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・中から下着をとり出した。鞄の中ほどまで色様々な茶の錫紙のレッテル、靴墨、鰯の空罐などがぎっしり詰っていた。「何があるの?」「今わかるよ……」 サーシャは鞄を両足で抱え、その上へかがみかかって祈祷をとなえた。「天の王様……」 ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・大人みたいな様子の女の児の白い下着の裾が水に濡れた。垢じんでるところを濡れたので尻の上まで鼠色にくまがひろがった。水の中へ立ったまんま、十ばかりの男の子がずっと自分より背の高い子を顎の下から突上げた。突かれた方のは、やっと立ってる位のちびの・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫