・・・ あの実方の中将は、この神の前を通られる時、下馬も拝もされなかったばかりに、とうとう蹴殺されておしまいなすった。こう云う人間に近い神は、五塵を離れていぬのじゃから、何を仕出かすか油断はならぬ。このためしでもわかる通り、一体神と云うものは、人・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・女中と二番の子が海岸橋を渡り切って下馬に来たとき、あとから渡った厨川白村氏がつなみにさらわれ沖に持って行かれた。 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 大観門の左右にあった、高さ凡そ二尺二三寸の下馬じるしを意味する一対の石の浮彫も目に遺った。この門の前、石欄のところに、慈航燈が在る。高く櫓形に石を組みあげた上に、四本の支えで燈籠形の頂がつけられて居る。恐らく昔、唐船入津の時節、或は毎・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
出典:青空文庫