・・・其偏頗不公平唯驚くに堪えたり。畢竟記者は婚姻契約の重きを知らず、随て婦人の権利を知らず、恰も之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従の極、男子の婬乱獣行をも軽々に看過せしめんとして、苟も婦人の権利を主張せんとするものあれば・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・すると、突然、今まで居るとも思えなかった一人の友達が、多勢の中から突立ち、どうしたことか、まるでまる真赤な洋服を着て、非常に露骨な強い言葉でその先生の不公平を罵倒し始めた。始めのうちは、条理が立って居たのが次第に怪しくなって、仕舞いには、何・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・こういう女の職業についての奇妙な不公平も、要するに過去の久しい間、女の職業というものについて女として求める確乎性が社会的に認められていなかったからです。女自身、ましてインテリゲンツィアの女のひとが、とかく抽象的に自己完成のための仕事を偏重し・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・喧しい婦人参政権の要求も、若し其が、単に男性が所有して居るのに、同じ人類である女性が賦与されないのは不公平だと云うその一点をのみ原因として要求するのならば、其は余り浅薄でございます。余り反動的動機でございます。其権利を獲得した事に依って、政・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ ロマン・ローランは、人間の社会にのこされる最後の不公平は、健康と病とであると云っているけれども、女はその最後の不幸の中にもう一つ女であるということからの不幸の匣を蔵していることは、私たちを沈思させる事実だと思う。 人々は、結婚につ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・カノサの十二月は、雪のつめたさに肌をさされながら働かねばならぬ貧しい民の苦労を始めて教え不公平な政をせぬ様に致して呉れ、又他人に「あやまる」と申す事の味も知ったのじゃ。 雪の中に立ちつくいた三日三小夜の時はわしに思いもかけぬ智恵をおくっ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・種々な法規が、消極的意味に於て女性に不便であり或る時は不公平であるとしても、直接法規作製に力める内部からの影響がなければ、改正も覚つかないでしょう。 外廓を廻って叫んでも、原動力とはなりません。例えば、民法第十四、五条、第七百八十八条、・・・ 宮本百合子 「法律的独立人格の承認」
・・・書いてあるのは毒にも薬にもならないような事であるか、そうでなければ、木村が不公平だと感ずるような事であるからである。そんなら読まなくても好さそうなものであるが、やはり読む。読んで気のない顔をしたり、一寸顔を蹙めたりして、すぐにまた晴々とした・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・その内にひそむ虚偽、不公平、私情などに対して正義の情熱の燃え上がるのを禁じ得なかった。これは先生として当然な事である。「博士」は多くの場合に対世間的な根の浅い名声の案山子である。博士であると否とにかかわらず学者の価値はその仕事の価値によって・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫