・・・ええ、因果と業。不具でも、虫でもいい。鳶鴉でも、鮒、鰌でも構わない。その子を連れて、勧進比丘尼で、諸国を廻って親子の見世ものになったらそれまで、どうなるものか。……そうすると、気が易くなりました。」「ああ、観音の利益だなあ。」 つと・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・来るものも一生奉公の気なら、島屋でも飼殺しのつもり、それが年寄でも不具でもございません。 と異な声で、破風口から食好みを遊ばすので、十八になるのを伴れて参りました、一番目の嫁様は来た晩から呻いて、泣煩うて貴方、三月日には痩衰えて死ん・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・……不具だと言うのです。六本指、手の小指が左に二つあると、見て来たような噂をしました。なぜか、――地方は分けて結婚期が早いのに――二十六七まで縁に着かないでいたからです。(しかし、……やがて知事の妾 私はよく知っています――六本指な・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・自分が不具者だということも、子供が、不具者の子だから、みんなにばかにされるのだろうということも、父親がないから、ほかにだれも子供を育ててくれるものがないということも、よく知っていました。 それですから、いっそう子供に対する不憫がましたと・・・ 小川未明 「牛女」
・・・たゞ、みんなが不具者となった自身を省みないからです。知識あることを誇らんとする者があったなら、其の人は、同時に、真理を解するが故に、社会革命家でなければならない。知識があって、もし其の心がなかったなら、其の人は、あまりこの社会に価値のない人・・・ 小川未明 「草木の暗示から」
・・・人間は、自ら造った社会のために、いまや、不具者にされ、人間性を忘れんとさせられている。 そして、ある者は、後から来る無邪気な子供を見て、憐れむのである。その無邪気も、光明も希望も、快活も、やがて奪い去られてしまって、疲れた人として、街頭・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・悲しい事にはこの四郎はその後まもなく脊髄病にかかって、不具同様の命を二三年保っていたそうですが、死にました。そして私は、その墓がどこにあるかも今では知りません。あきらめられそうでいてて、さて思い起こすごとにあきらめ得ない哀別のこころに沈むの・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ けれどもその後、だんだんおしげと六蔵の様子を見ると、いかにも気の毒でたまりません。不具のうちにもこれほど哀れなものはないと思いました。唖、聾、盲などは不幸には相違ありません。言うあたわざるもの、聞くあたわざる者、見るあたわざる者も、な・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・人間の教養として文学の趣味はあっても倫理学の素養のないということは不具であって、それはその人の美の感覚に比し、善の感覚が鈍いことの証左となり、その人の人間としての素質のある低さと、頽廃への傾向を示すものである。美の感覚強くして善の関心鈍きと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 恋愛は相互に孤立しては不具である男・女性が、その人間型を完うせんために融合する作用であり、「を味う」という法則でなく、「と成る」という法則にしたがうものであり、その結果として両者融合せる新しき「いのち」が生誕するのだ。 子どもの生・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫