・・・人間の言葉の不完全なことがよく分かる。こんな不完全な言葉を使った「論理」などは当てになるはずがない。煽動者の利器とする詭弁の手品の種はここから出て来るのである。 十二 一と頃、学生の観客の多い映画館で、ニュー・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・、ことに精神的方面に関したもので、事物の真を探究するとは言うものの、よく考えてみると物の本来の面目はやはりわからないで、つまりは一種の人相書きか鳥羽絵をかいている場合も多いように思われるが、そのような不完全な「像」が非常に人間に役に立って今・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・しかし実際には多くの場合にこういう発明はかなり不完全なものであったり、実は新しくもなんでもないものであったりする。今の科学的な利器は単に独創的な素人の思いつきや苦心だけで完成するにはあまりに多くの専門的知識の素養を必要とする、という明白な事・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・そんな無稽な夢を描かなくても、科学とその応用がもっと進歩すれば、生きた歯を保存することも今より容易になり、また義歯でも今のような不完全でやっかいなものでなくてもっと本物に近い役目をつとめるようなものができるかもしれない。しかし一つちょっと困・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ナチュラリズムは、材料の取扱い方が正直で、また現在の事実を発揮さすることに勉むるから、人の精神を現在に結合さする、例えば人間を始めから不完全な物と見て人の欠点を評したるものである。ローマンチシズムは、己以上の偉大なるものを材料として取扱うか・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・この意味からして皆不完全なものばかりである。のみならず自分の専門は、日に月に、年には無論のこと、ただ狭く細くなって行きさえすればそれですむのである。ちょうど針で掘抜井戸を作るとでも形容してしかるべき有様になって行くばかりです。何商売を例に取・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・学理通り飛行機が自分を乗せて動いてくれたところで、始めて形式に中味がピッタリ喰っついている事を証明するのだから、経験の裏書を得ない形式はいくら頭の中で完備していると認められても不完全な感じを与えるのであります。 して見ると、要するに形式・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・つまり人間はどう教育したって不完全なものであると云うことに気がつかなかった。不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着に起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力し・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・の第五篇に不完全ながら自分の考えだけは述べておきましたから、御参考を願いたいと思います。ついでに「文学論」も一部ずつ御求めを願いたいと思います。――とにかく意識がある。物もない、我もないかも知れないが意識だけはたしかにある。そうしてこの意識・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れたるの罪なりとて、専ら道徳の旨を奨励するその方便として、周公孔子の道を説き、漢土聖人の教をもって徳育の根本に立てて、一切の人事を制御せんとするものの如し。 我が輩は論者の言を聞き、その憂うると・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫