・・・文学・芸術などにいたっても、不朽の傑作といわれるものは、その作家が老熟ののちよりも、かえってまだ大いに名をなしていない時代に多いのである。革命運動などのような、もっとも熱烈な信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、ことに少壮の士に待たねば・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 力士の如き其最も著しき例である、文学・芸術の如きに至っても、不朽の傑作たる者は其作家が老熟の後よりも却って未だ大に名を成さざる時代の作に多いのである、革命運動の如き、最も熱烈なる信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、殊に少壮の士に・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・何の小春が、必ずと畳みかけてぬしからそもじへ口移しの酒が媒妁それなりけりの寝乱れ髪を口さがないが習いの土地なれば小春はお染の母を学んで風呂のあがり場から早くも聞き伝えた緊急動議あなたはやと千古不変万世不朽の胸づくし鐘にござる数々の怨みを特に・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・文章ひとつひとつが、不朽のものらしく感じられるのだった。そんなゆがめられた歓喜の日をうかうかと送っているうちに、私は、いままでいちども経験したことのない大事件に遭遇したのである。 四 恋をしたのである。おそい初・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・唯一無二のもの。不朽のもの。書簡集の中には絶対にないもの。兵法 文章の中の、ここの箇所は切り捨てたらよいものか、それとも、このままのほうがよいものか、途方にくれた場合には、必ずその箇所を切り捨てなければいけない。いわんや、そ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 両国橋には不朽なる浮世絵の背景がある。柳橋は動しがたい伝説の権威を背負っている。それに対して自分は艶かしい意味においてしん橋の名を思出す時には、いつも明治の初年返咲きした第二の江戸を追想せねばならぬ。無論、実際よりもなお麗しくなお立派・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・仏蘭西の地層から切出した石材のヴェルサイユは火事と暴風と白蟻との災禍を恐るる必要なく、時間の無限中に今ある如く不朽に残されるであろう。けれども我が木造の霊廟は已にこの間も隣接する増上寺の焔に脅かされた。凡ての物を滅して行く恐しい「時間」の力・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・我輩これを知らざるにあらずといえども、およそ今の日本国人として、現在の愉快、後世子孫の幸福は、何を以て最とするやと尋ねたらば、独立の体面を維持して日本国の栄名を不朽に伝うるのほかなかるべし。而してこの体面と栄名とを張るにいささかにても益すべ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 即ち、その時の若さが不朽なのである。 ――○―― 小剣氏の様に又、鈴木氏の様にあまり物事がきっぱりきっぱりがすきと云う人は、私のきらいな人である。 あまりきっちりきっちりして居るところに驚くべき美がないと同・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・は、何故今日まで不朽に生命を受けて居るか。 永遠に変らざる「真」がその一言の中にも輝いて居るからでは無いか。 ホーマーもミルトンも、只「真」の一字がある故に尊いではないか。 孔子、基督、その他あらゆる人々の頭上高く、真の光りに被・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
出典:青空文庫