・・・若い世代でいい科白の書けるのは、最近なくなった森本薫氏ぐらいのもので、菊田一夫氏の書いている科白などは、森本薫氏のそれにくらべると、はるかにエスプリがなく、背後に作者のインテリゼンスが感じられず、たとえば通俗小説ばかり書いている人の文章が純・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ それに私たち三十代の半ばに達していない年頃の人間は、感激とか涙とか昂奮とか絶叫とかいうことを知らない世代ではないかと思われるくらい、泣きたがらない傾向がある。今年の五月のことだ。京都のある雑誌でH・Kという東京の評論家を京都に呼んで、・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・すくなくとも秋声の叫ばぬスタイル、誇張のない態度は、僕ら若い世代にとってかなわぬものの一つだ。しかし、文学の態度は、自然主義だけではない。文学というものは、結局誇張だと思うところから、ジタバタ書いて行くのが、若い世代の文学であろう。誇張ぎら・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・この後とても世代の移るにつけいろいろな説がつみたされていくであろう。 が恋愛とは何であるかということを概念的にきめてかかることはさまで大事なことではない。むしろ自分自身の異性への要求と、恋愛の体験とによって自らこの問いをさぐっていき、自・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ここには同じ宗教的日本主義者として今日彼に共鳴するところの多い私が、私の目をもって見た日蓮の本質的性格と、特殊的相貌の把握とを、今の日本に生きつつある若き世代の青年たちに、活ける示唆と、役立つべき解釈とによって伝えたいと思うのである。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・私たちの世代の文学に、どんな工合いの影響を与えているだろう。思いついたままを書きしるす。 答。ちっとも。 私たちの世代にいたっては、その、いとど嫋嫋たる伝統の糸が、ぷつんと音たてて切れてしまったかのようである。詩歌の形式は、いまなお・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・ああ、この世くらくして、君に約するに、世界を覆う厳粛華麗の百年祭の固き自明の贈物のその他を以てする能わざることを、数十万の若き世代の花うばわれたる男女と共に、深く恥じいる。二十七日。「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それが、役目がすむと直ちに枯死してしまった、あとは、次の世代を胎んだ雌のひとり天下になると見える。蜜蜂やかまきりの雄の運命ともよく似たところがあるのである。蜜蜂の雄虫は生殖の役目を果たすと同時に空中から石のごとく墜ちて死ぬ。かまきりの雄は雌・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ この動植物の新世代の活動している舞台は、また人間の新世代に対しても無尽蔵な驚異と歓喜の材料を提供した。子供らはよくこれらの小さな虫をつかまえて白粉のあきびんへ入れたりした。なんのためにそんな事をして小さな生物を苦しめるかというような事・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・*1「世代から世代へ、いく世代も。」*2「少くともラテン語は読まなければいけない。」*3「哲学者は煙草を吸わざるべからず。」 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
出典:青空文庫