・・・常にその外見において粋であることはできない。常に世故にたけていることも、エレガントであることもできないのである。 こんにちの文学の諸錯綜の姿を描き出し、相互関係を示そうとしている努力で、私は「現代文化と思想的文学的傾向」を有益に読んだ。・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・三十年か四十年世の中に揉まれていれば、大抵の者のなれる「世故にたけたお悧巧な方」になりたくもありません。私はただ、ほんとの生活がしたい。考えるべきことは、どんなに辛くとも考え、視なければならないものは、どんな恐ろしいものでも視て、真正な生活・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・やや世故にたけたといわれる年頃では、そういう階級の狭い生活が多くの女の心に偏見と形式と家常茶飯への没頭、良人の世間並な立身出世に対する関心をだけを一杯にしていたであろう。荷風が、弱々しき気むずかしさでそれらの女の生活と内容に自身を無縁なもの・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 殉死を許した家臣の数が十八人になったとき、五十余年の久しい間治乱のうちに身を処して、人情世故にあくまで通じていた忠利は病苦の中にも、つくづく自分の死と十八人の侍の死とについて考えた。生あるものは必ず滅する。老木の朽ち枯れるそばで、若木・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫