・・・火野の文章と対比的に世評に上ったが、前者が生々しい戦場の記録として多くの感銘を与えたに反して、上田広のこの小説は、同じ感銘では受け取られなかった。「鮑慶郷」に於て作者は、戦争から一つのテーマを捉え来って、それを小説に纏めるという、作者の日々・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ これら一連の老大家たちの作品の中で、よかれあしかれ最も世評にのぼったのは荷風の「ひかげの花」であった。当時、批判は区々であったが、大たい内容はともかく荷風の堂に入ったうまさはさすがであるという風に評価された。そのうまさを買わないで、内・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・あに権力のみにかぎらない。世評などに対しても必ず左右されてはならない。」「司法権の最も大切な、重大な問題としては検事の不法取調べという問題がおこっている。こういうことを果して看過していいかどうかということについては、吾々は深く憂うるのである・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・が上方で華やかな世評を喚起したのもこの前後であった。京都生れの武士であった近松は、当時崩れゆく武家の経済事情に押し流されて、いくつかの主家を転々した末は浪人して、歌舞伎の大成期であったその時代から辛苦の多い劇作家の生活に入った。芭蕉よりは十・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・を書いて、世評高かった頃、その作品を読み、私はある人から見たらおそらく野蛮だといわれるであろう一つの考えにとらわれた。それは、谷崎氏のように精力的作家でも、日本の作家は初老前後となれば落ちつくさきはやっぱりここかという失望である。 佐藤・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ 例えば、世評の高かった映画「夢見る唇」の魅力はどこにあったでしょう。「にんじん」は、挫かれひしがれた純情で観客の心を打ったのではなかったろうか? 何故、若者の心はそのようなものに惹きつけられるのでしょう。 今日、社会の機構が我々の・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・ 露都の一夜、なつかしきエレオノラのために狂舞したヘルマン・バアルはかくして世評に対する彼の論理的欲望を充たした。 やがてデュウゼの一身には恐ろしい変化が来た。彼女はもはや情熱の城に立てこもろうとはしない。彼女は若い時の客気にま・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫