・・・前者の場合には世道人心を善導し、後者の場合には惨禍と擾乱を巻き起こした例がはなはだ多いようである。いずれもとにかく人間の錯覚を利用するものである。 もしも人間の「目」が少しも錯覚のないものであったら、ヒトラーもレーニンもただの人間であり・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・始めて文芸が世道人心に至大の関係があるのを悟るのであります。我々は生慾の念から出立して、分化の理想を今日まで持続したのでありますから、この理想をある手段によって実現するものは、我々生存の目的を、一層高くかつ大いにした功蹟のあるものであります・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・就中親族編の如きは、古来日本に行われたる家族道徳の主義を根底より破壊して更らに新主義を注入し、然かも之を居家処世の実際に適用す可しと言う非常の大変化にして、所謂世道人心の革命とも見る可きものなるに、其民法の草案は発布前より早く流布して広く世・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・について、荷風も下手になったといい、「この頃はエロでなくても、傾向がわるいという理由ですぐ切り取りを命ずる警保局が、なぜあんな世道人心を害」する作品を切りとらせないかといった。正宗白鳥は、菊池が自身の側においたような風でいっている警保局云々・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫