・・・うぐい亭の存在を云爾ために、両家の名を煩わしたに過ぎない。両家はこの篇には、勿論、外套氏と寸毫のかかわりもない。続いて、仙女香、江戸の水のひそみに傚って、私が広告を頼まれたのでない事も断っておきたい。 近頃は風説に立つほど繁昌らしい。こ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・その事件はまだそのままになっていたが、そのため両家の交際は断えていたのだ。「何という無法者だろう。恩も義理も知らぬ仕打ではないか!」 老父は耕吉の弁解に耳を仮そうとはしなかった。そして老父はその翌朝早く帰って行った。耕吉もこれに励ま・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・この両家とも田舎では上流社会に位いするので、祝儀の礼が引きもきらない。村落に取っては都会に於ける岩崎三井の祝事どころではない、大変な騒ぎである。両家は必死になって婚儀の準備に忙殺されている。 その愈々婚礼の晩という日の午後三時頃でもあろ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・じ立場に在る者は同じような感情を懐いて互によく理解し合うものであるから、中村の細君が一も二も無く若崎の細君の云う通りになってくれたのでもあろうが、一つには平常同じような身分の出というところからごくごく両家が心安くし合い、また一つには若崎が多・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・しかも当時の博識で、人の尊む植通の言であったから、秀吉は徳善院玄以に命じて、九条近衛両家の議を大徳寺に聞かせた。両家は各固くその議を執ったが、植通の言の方が根拠があって強かった。そうするとさすがに秀吉だ、「さようにむずかしい藤原氏の蔓となり・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・裏の二軒は、いずれも産業戦士のお家である。両家の奥さんは、どっちも三十五、六歳くらいの年配であるが、一緒に井戸端で食器などを洗いながら、かん高い声で、いつまでも、いつまでも、よもやまの話にふける。私は仕事をやめて寝ころぶ。頭の痛くなる事もあ・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・「浅井」両家の位置が記入されている。面白いことは横町の入口の両脇の角に「ユヤ」「床ヤ」と書いてある。それから不折邸の横に「上根岸四十番」と記し、その右に大きな華表を画いて「三島神社」としてある。ずっと下の方に門を書いて、「正門」としてあるの・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・これより両家の間は長く中絶えて、ウィリアムの乗り馴れた栗毛の馬は少しく肥えた様に見えた。 近頃は戦さの噂さえ頻りである。睚眦の恨は人を欺く笑の衣に包めども、解け難き胸の乱れは空吹く風の音にもざわつく。夜となく日となく磨きに磨く刃の冴は、・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・一度び互に婚姻すればただ双方両家の好のみならず、親戚の親戚に達して同時に幾家の歓を共にすべし。いわんや子を生み孫を生むに至ては、祖父を共にする者あり、曾祖父を共にする者あり、共に祖先の口碑をともにして、旧藩社会、別に一種の好情帯を生じ、その・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ まるで、風土文物の異った封建時代の王国の様に、両家の子供をのぞいた外の者は、垣根一重を永劫崩れる事のない城壁の様にたのんで居ると云う風であった。 けれ共子供はほんとに寛大な公平なものだとよく思うが、親父さんに、「おい又行く・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫