・・・多種な容姿と表情は、子供時代からの両性交際に練れ切った巧なタクトと倶に、彼の周囲を輝やかせますでしょう。そして、其の目前の女性は、宇宙の女人其ものの表象であるかの如く、彼の脳裡から悉く他の女性の型を追い払って仕舞うのでございます。 ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・独自の文芸理論もないために、その能動性は作品の現実では、素朴な行動性の方向をとらざるを得ず、その行動も社会的な客観性を避けているためにつまりは在り来った両性関係のうちに表現された。而も、両性関係における行動性というものも、本質に於ては日本旧・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・事と文学を職業とするということの間に矛盾があってはならないわけであるけれども、いつしか文学を職業とする方へ主軸が傾きがちで、職業的労作の単純化、統一化、能率化のためには、真の文学精神が回避出来ない筈の両性の波瀾をも、わが家の中では御免という・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・かりに男八時間女八時間の社会的な勤労に対して、男と女とが一銭の差のない報酬を獲る社会があったとして、ではそれでそこには欠けることない両性の明るくゆたかな生活が創られているといえるのだろうか。 世界じゅうの婦人がおびただしく社会的な活動に・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・人性の天然に従った両性関係の確立、再婚の自由、娘の結婚にあたって財産贈与などによる婦人の経済的自立性の保護などについて説いている諭吉の「新女大学」は、今日にあっても私たちを爽快にさせる明治の強壮な常識に貫かれている。 若い女性たちが数百・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・は、近代における自我の問題として人間交渉の姿に敏感・執拗・潔癖であったこの作家の苦悩に真正面からとり組んだ作品であるばかりでなく、両性の相剋の苦しみの面をも絶頂的に扱われた小説と思える。この作品が、漱石の作家としての生涯の特に孤立感の痛切で・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 第一、結婚した両性の生活として、親になってこそ始めて使命の完うされるものであると云う立場から、幾人であろうとも生まれ出る子等を、しんから悦び迎える者。根本の立場は同じであっても、経済的事情、健康状態を考慮して、二人三人、質に於て最も優・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・在るのは、数々の人間行動の基準の一つとして、両性関係をどう見てゆくか、という白日的な問題の提出方法である。それは、過去において、貞操が扱われたような信仰的なものではなくて、もっと客観的な探求の対象として、人間生活理解の上の課題としてあらわれ・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・同時に両性の清らかな愛による互いの選択と、その神の嘉し給う結合の形としての結婚を主張した。 ところでこの「神聖なる結婚」「純潔なる家庭」といいながら、資本主義社会の冷酷な利害関係と、持つ者持たない者との関係によって、現実にはどんな矛盾が・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・更に鋭い科学者の観察で現実を見きわめる卓抜者は、やがて、婦人大衆の生存の苦楽は、男との相対関係にだけ規定されるものでなく、両性の関係をも支配するところの社会機構の本質の問題にかかっていることを観破せざるを得ないであろうと思う。 私は、良・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫