托児所からはじまる モスクはクレムリとモスク河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 並木道を工場の方へ曲ると、工場の正門に赤旗がいきいきはためいている。托児所の煉瓦の建物の窓も、赤旗である。 続々とやってくる婦人労働者たちは、みんな勇んでその門を入って行く。五ヵ年計画がはじまってから誰でも七時間労働だが、今日は特・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・ モスクワの細かいサラサラした一月の雪が、アーク燈に照らされ凍って真白な並木道に降っている。橇で夜ふけの街をホテルへ帰った。―― 二年たった。一九三〇年だ。「ゲルツェンの家」の門をはいって行くと、右手の庭に屋外食堂が出来ている。雨の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・ アーク燈に美しく照らされたモスクワ市中の並木道は、日に二時間ぐらいずつ自由時間のある赤衛兵、ピオニェール、その他大衆の散歩で賑やかだ。並木道にも音楽堂があって、労働者音楽団の奏する音楽が遠くまで、夜おそくまで聞える。 ソヴェト同盟・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・二人は並んで、頭をつつんだ肩掛の中から白い息をたてながら並木道を歩いた。 ――どう? お前さんの体工合。 ミーチャの母さんがきいた。 ――あれらしいわ。 ――姙婦健康相談所へ行ったの? ――それで分ったのさ。 ――心・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
三時すぎるともう日が暮れかかって、並木道にアーク燈が燦きはじめ、家路をいそぐ勤め帰りの人々の姿が雪の上に黒く動く。夕方の散歩もアーク燈にてらされた雪の並木路で、くるくるにくるまれた小さい子供たちは、熊の仔のような手袋はめた・・・ 宮本百合子 「モスクワ」
・・・ 並木道を家まで歩いて帰った。 爽やかな秋風の並木道のベンチに女がゆっくり腰かけて、繕いものをしながら乳母車にのせた赤坊を日向ぼっこさせてる。乾いた葉っぱの匂い、微かな草の匂い。自動車やトラックは並木道のあっちを通るから、小深い樹の・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・有名なマントをひっかけてたたずんでるプーシュキンの頭は、街燈、電車のポール、並木道の冬木立の梢などの都会的錯綜の間にぼんやり黒く見える。 ――右かね、左かね? 御者の声に日本女は、 ――右! 右!と返事した。 ――かど曲・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫