・・・父独得の自然でこだわらない性格から、こういうことのさけがたさ、やむを得なさとを会得し、同時にそういうやむを得ない中断によっても変えることの出来ない父娘の愛情を極く自在な形でたのしむ術をも会得して行ったのであった。 一年前の五月九日、翌る・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・私はその時に自己表現の情熱を中断されたように思う。そのころは知人と口をきくことさえも私を不安にした。私はできるだけ知人を避け、沈黙を守った。愛と誠実とに動かされない場合は何事も言わず何事も書くまいと誓った。 こうして一年以上私は狭い自分・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・そして電光のように時おり苦患を中断する歓喜の瞬間をば、成長の一里塚として全力をもってつかまねばならぬ。 苦患のゆえに生を呪うものは滅べ。生きるために苦患を呪うものは腐れ。二 ショペンハウェルの哲学は苦患の生より生い出る絶・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫