・・・人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格という語をかたちづくる中核的意味でなければならぬ。私はいかなる卓越した才能あり、功業をとげたる人物であっても、彼がもしこの態度において情熱を持っていないならば決して尊敬の念を持ち得・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・この器械で研究してみると、通俗な意味で塵と称するものでなくても、凝縮の中核となるものは色々ある。特に荷電されたガスのイオンのようなものでも湿気が充分多くていわゆる過飽和度が高ければ、やはり凝縮を起す事が明らかになった。しかし実際の空気中では・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・しかし一人のアインシュタインを必要とした仕事の中核真髄は、この道具を必要とするような羽目に陥るような思考の道筋に探りあてた事、それからどうしてもこの道具を必要とするという事を看破した事である。これだけの功績はどう考えても否む事はできないと思・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・夢幻的な間に合わせの仮象を放逐して永遠な実在の中核を把握したと思われる事でなければならない。複雑な因果の網目を枠に張って掌上に指摘しうるものとした事でなければならない。 この新しい理論を完全に理解する事はそう容易な事ではないだろう。アイ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・文学の対象として自我をとり扱い、私小説を中核に抱いて来た純文学が、社会の推移につれてその自我を喪失して卑俗な現実に属するしかない純粋小説論を生むに到ったことはさきにふれたが、この時期に到って知識人の文化発展における能力への懐疑、純文学の作家・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そして民主主義文学の中核をなすべき勤労階級の文学は、だんだんその流れの幅をひろげるでしょう。日本に新しい生活と新しい文学を求めるすべての人々は、はげしい期待をもってこの流れに注目しています。 おなじように、前年度から活動をあらわしたイン・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ しかし、現代の世界のヒューマニティーの現実は、その芸術再現の方法を、社会主義リアリズムに発展させてゆかなければ、歴史の動きの中核と人間生活の具体的な関係を描き得ない時代に来ている。第二次世界大戦ののち――一九四五年からのちの世界とその・・・ 宮本百合子 「「道標」を書き終えて」
・・・ 日本にプロレタリア文学運動はあった、それが在ったことは当然であり、今日、民主主義文学の全運動のなかに、推進の中核として労働者階級の文学の課題が生きている。プロレタリア文学の業績は摂取され正しく伝承されなければ民主主義文学はその成長の骨・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・ 河の流れは夥しい水の圧力となって流れているのではあるが、河にはいつもその堤をかみ、堤と昼夜をわかたず摩擦してやがてその岸を必然に従って変えてゆく先頭の力としての河岸沿いの水というものがある。中核の圧力をこめてつたえて岸を撃ち、河の力が・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ヴェデキントは作家としての特質から、少年少女の性の目覚めの悩乱を、今日の感覚からみると極端まで中核におきすぎて、その点で登場する若い人物たちは動物的に性的な一面へ歪められすぎた暗い姿を現している。けれども、中学校の教育というものが、若い肉体・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫