・・・場合には、自然に且つ多くの場合に当事者の無意識の間に、色々の拘束障害が発生して来て、その研究は結局中止するか、あるいは研究者がそこを去る外はないようになることもないとは云われない。環境に適しないものの生存が自然に沮止されるのはこのような場合・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・一時、頻と馬術に熱心して居られたが、それも何時しか中止になって、後四五年、ふと大弓を初められた。毎朝役所へ出勤する前、崖の中腹に的を置いて古井戸の柳を脊にして、凉しい夏の朝風に弓弦を鳴すを例としたが間もなく秋が来て、朝寒の或日、片肌脱の父は・・・ 永井荷風 「狐」
・・・それがため適当なるモデルを得るの日まで、この制作を中止しようと思い定めた。 わたしはいかなる断篇たりともその稿を脱すれば、必亡友井上唖々子を招き、拙稿を朗読して子の批評を聴くことにしていた。これはわたしがまだ文壇に出ない時分からの習慣で・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・いろいろの事情で、私は私の企てた事業を半途で中止してしまいました。私の著わした文学論はその記念というよりもむしろ失敗の亡骸です。しかも畸形児の亡骸です。あるいは立派に建設されないうちに地震で倒された未成市街の廃墟のようなものです。 しか・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・分なるに、盗賊を捕えて詮議せんとすれば則ち貪慾の二字を持出し、貪慾の心は努ゆめゆめ発す可らず、物を盗む人あらば言語を雅にして之を止む可し、怒り怨む可らず、尚お其盗人が物を返さずして怒ることあらば、暫く中止して復た後にす可しと教うるが如し。婦・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ウラジヴォストクの某氏へ電報打とうと云って、頼信紙に書きまでしたが、大抵五時だろうと云う車掌の言葉に電報は中止した。 ――明日どうせせわしいんだから、ちゃんと今日荷物しとかなけりゃいけない。 連絡船は十二時に出る。一週間に一度である・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・そんなユーモラスな一つの記録も、こんにちよめば、制服の警官が臨監して、中止! 中止! と叫ぶ場内の光景はいきいきと目にうかんで来る。われわれの文学史の、これが生きた一頁であった。「一連の非プロレタリア的作品」という論文は当時やかましく論・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・いい加減で中止。○ バラさん風呂。一人で椅子にかけ、窓の高いところから青い冬空と風にゆられている樹の梢を眺めている。廊下では例によってフランスのお爺さんと毛糸屋さんとが特徴のある年よりらしい甲高声で、何とか何とかネスパ? ああウイウイと・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・この頃わたしたちが本当にききたいと思うような講演会で中止にならないことはありません。公判で堂々と話される演説には、どんなにはっきり云われても、中止! はないのです。これだけでも、わたしらの教わることは話のほかです。 私は失業中で切ない暮・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ エルリングに出逢って、話をし掛けた事は度々あったが、いつも何か邪魔が出来て会話を中止しなくてはならなかった。 ある晩波の荒れている海の上に、ちぎれちぎれの雲が横わっていて、その背後に日が沈み掛かっていた。如何にも壮大な、ベエトホオ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫