・・・ また私が、五年まえに盲腸を病んで腹膜へも膿がひろがり、手術が少しややこしく、その折に用いた薬品が癖になって、中毒症状を起してしまい、それをなおそうと思って、水上温泉に行き、二、三日は神に祈ってがまんをしたが、苦しさに堪え切れず、水上町・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・船橋に移ってからは町の医院に行き、自分の不眠と中毒症状を訴えて、その薬品を強要した。のちには、その気の弱い町医者に無理矢理、証明書を書かせて、町の薬屋から直接に薬品を購入した。気が附くと、私は陰惨な中毒患者になっていた。たちまち、金につまっ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・お医者のほうでも、私を人の扱いせず、あちこちひねくって、「中毒ですよ。何か、わるいものを食べたのでしょう。」平気な声で、そう言いました。「なおりましょうか。」 あの人が、たずねて呉れて、「なおります。」 私は、ぼんやり、・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・パヴィナアル中毒全治。以後は、一、十一年十一月より十二年六月末までサナトリアム生活。一、十二年七月より十三年十月末まで、東京より四、五時間以上かかって行き得る保養地に、二十円内外の家借りて静養。 右の如く満一箇年、きびしき摂生、・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・昨日鬼押出の岩堆に登った時に出来た疲労素の中毒であろう。これでは十日計画の浅間登山プランも更に考慮を要する訳である。 宿の夜明け方に時鳥を聞いた。紛れもないほととぎすである。郷里高知の大高坂城の空を鳴いて通るあのほととぎすに相違ない。そ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・話の筋も場面も実に尋常普通の市井の出来事で、もっとも瘋癲病院の中で酒精中毒の患者の狂乱する陰惨なはずの場面もありはするがいったいに目先の変わりの少ないある意味では退屈な映画である。それだけに、そうしたものをこれだけにまとめ上げてそうしてあま・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・これは涜職者を出すから小学校長を全廃せよ、腐った牛肉で中毒する人があるから牛肉を食うなというような議論ではないかと思われる。 こんな事件が起るよりずっと以前から「博士濫造」という言葉が流行していた。誰が云い出した言葉か知れないが、こうい・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・たまたま腐った蛋白を喰って中毒した人があったからと云って蛋白質を厳禁すれば衰弱する。 電車で逢った背広服の老子のどの言葉を国定教科書の中に入れていけないといういわれを見出すことが出来なかった。日本魂を腐蝕する毒素の代りにそれを現代に活か・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・しかし前任者が果して瓦斯中毒で死んだかどうかも確実には分からないようである。一体どんな職業でも、丁度自分の前任者が引続いて二人死んだという場合を捜せばいくらも例があるかもしれない。また、前任者がみんな健康でぴちぴちしている、その後を受けた自・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ こういう現象はもしやコーヒー中毒の症状ではないかと思ってみたことがある。しかし中毒であれば、飲まない時の精神機能が著しく減退して、飲んだ時だけようやく正常に復するのであろうが、現在の場合はそれほどのことでないらしい。やはりこの興奮剤の・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
出典:青空文庫