・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・には、日本のそういう中流的環境にある一人の若い女性が、女として人間として成長してゆきたいはげしい欲求をもって結婚し、やがて結婚と家庭生活の安定について常識とされている生活態度にうちかちがたい疑いと苦しみを抱くようになって結婚に破れゆく過程が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・丁度、第一次ヨーロッパ大戦が終った時から、その後の数年間に亙る時期に、日本の一人の若い女性が、人及び女として、ひたすら成長したい熱望につき動かされて、与えられた中流的な環境の中で、素朴ながら力をこめて羽ばたきつつ自身の道をひらいてゆく現実を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』第一部)」
・・・を発表し、ヨーロッパ風な教養と中流知識人の人道的な作風を示した。「焙烙の刑」その他で、女性の自我を主張し、情熱を主張していた田村俊子はその異色のある資質にかかわらず、多作と生活破綻から、アメリカへ去る前位であった。 こういう文学の雰囲気・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・には、上流社会ずきの中流人の諷刺がある。中流といっても「牡丹」に描かれたような日かげの、あわれはかない人々の人生の姿もある。「牡丹」は、駒沢の奥のひっそりした分譲地の借家に暮していたころ、その分譲地のいくつかの小道をへだてたところにある一つ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・二十歳の女の人生をその習慣や偏見のために封鎖しがちな中流的環境から脱出するつもりで行った結婚から、伸子は再度の脱出をしなければならなかった。世間のしきたりから云えば十分にわがままに暮しているはずの伸子がなぜその上そのように身もだえし、泣き、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・が、一九三〇年代より四〇年代の若い人々にとって、特に意味をもっているわけは、この長篇小説の作者が、主人公ジャックの成長して行った当時のフランスの中流社会の生活ぶり、その気分を客観的にとらえていると同時に第一次大戦前後の社会的状勢も客観的な歴・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・数年前デパートの女店員は家庭を助けたが、今は家庭が中流で両親そろい月給で生計を助ける必要のないものというのが採用試験の条件である。「大人」に憂いが深いばかりか大人になりつつある若い男女の心も、訴えに満ちている。世の中は何故こうなったのだろう・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・イギリスはそれまで豊かだった中流層の経済力とともに安定していた清教徒風な、モラルのよりどころであった「純潔」の再検討によって。フランスはカソッリク的な純潔の現実的な定義に関して。 ゴールスワアジーの小説に「聖者の道行」という小説がある。・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・飽くまで英国――一九〇〇年代――中流人だ。識ろうとする欲求によってではなく、社交上の情勢によって、顔役として坐っていた。○アングロサクソン人の、ロシア及ドイツに対する無智な偏見。○イギリスとアメリカの短篇小説の違い、主としてテクニッ・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
出典:青空文庫