・・・「翁様、娘は中肉にむっちりと、膚つきが得う言われぬのが、びちゃびちゃと潮へ入った。褄をくるりと。」「危やの。おぬしの前でや。」「その脛の白さ、常夏の花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが――年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・死ぎわに熱でも出なければ――しかし、若いから、そんなに痩せ細ったほどではありません。中肉で、脚のすらりと、小股のしまった、瓜ざね顔で、鼻筋の通った、目の大い、無口で、それで、ものいいのきっぱりした、少し言葉尻の上る、声に歯ぎれの嶮のある、し・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・胸が少しはだかって、褄を引揚げたなりに乱れて、こぼれた浅葱が長く絡った、ぼっとりものの中肉が、帯もないのに、嬌娜である。「いや知っています。」 これで安心して、衝と寄りざまに、斜に向うへ離れる時、いま見たのは、この女の魂だったろう、・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・見廻すとその中の五人は兼て一面識位はある人であるが、一人、色の白い中肉の品の可い紳士は未だ見識らぬ人である。竹内はそれと気がつき、「ウン貴様は未だこの方を御存知ないだろう、紹介しましょう、この方は上村君と言って北海道炭鉱会社の社員の方で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・私、小学四、五年のころ、姉は女学校、夏と冬と、年に二回の休暇にて帰省のとき、姉の友人、萱野さんという眼鏡かけて小柄、中肉の女学生が、よく姉につれられて、遊びに来ました。色白くふっくりふくれた丸ぽちゃの顔、おとがい二重、まつげ長くて、眠ってい・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・が極地味な好みで、その頃流行った紋織お召の単物も、帯も、帯止も、ひたすら目立たないようにと心掛けているらしく、薄い鼠が根調をなしていて、二十になるかならぬ女の装飾としては、殆ど異様に思われる程である。中肉中背で、可哀らしい円顔をしている。銀・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫