・・・牛の串焼。にぎりずしの盛合せ。海老サラダ。イチゴミルク。 その上、キントンを所望とは。まさか女は誰でも、こんなに食うまい。いや、それとも?行進 キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・(Ice.)steik は steka と親類で英語の stick すなわちステッキと関係があり、串に刺して火にあぶる「串焼き」であったらしい。このステッキがドイツの stechen につながるとすると今度は「突く」「つつく」が steik・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・千住の名産寒鮒の雀焼に川海老の串焼と今戸名物の甘い甘い柚味噌は、お茶漬の時お妾が大好物のなくてはならぬ品物である。先生は汚らしい桶の蓋を静に取って、下痢した人糞のような色を呈した海鼠の腸をば、杉箸の先ですくい上げると長く糸のようにつながって・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・料理に何か串焼のようなものが出たら、かの子さんがいかにも食べにくそうに、どうしてたべるのかしらと眺めていられるので、私がその串をぬいてあげたことがあった。 和歌の話が出て、私は何も知らず、そういう伝統も持たないが、「金槐集」はすこし読ん・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・羊肉の串焼を高く捧げて、一人の助手がそれを恭々しくぬいては客に供する、実にこと/″\しい。そのうちに、この家独特のロシアの貴族? の一団によるバイオリンやヴオーカルがはじまり、婦人の出る時は、その度々電燈が消された――踊り手だけを照らしつゝ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫