・・・しかるに今この順序主客を逆まにしてあらかじめ一種の形式を事実より前に備えておいて、その形式から我々の生活を割出そうとするならば、ある場合にはそこに大変な無理が出なければならない。しかもその無理を遂行しようとすれば、学校なら騒動が起る、一国で・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・とにかく、カント哲学においては、先験感覚論の始にいっている如き、我々の自己が外から動かされるという如き主客の対立、相互限定ということが根柢にあり、そこに主語的論理の考え方を脱していない。いわゆる物自体の難問も、そこから起って来るのである。主・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 違棚の上でしつっこい金の装飾をした置時計がちいんと一つ鳴った。「もう一時だ。寝ようかな。」こう云ったのは、平山であった。 主客は暫くぐずぐずしていたが、それからはどうした事か、話が栄えない。とうとう一同寝ると云うことになって、・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・「日ぐらしや主客に見えし葛の花」と、また梶は一句書きつけた紙片を盆に投げた。 日が落ちて部屋の灯が庭に射すころ、会の一人が隣席のものと囁き交しながら、庭のま垣の外を見詰めていた。垣裾へ忍びよる憲兵の足音を聞きつけたからだった。主宰者・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫