・・・は、あらゆるところで、女は夫に仕えて云々という表現をしているのだが、福沢諭吉の開化の心は、主従関係、身分の高下をあらわしたそういう表現が夫婦の間にあることに耐え得ない。「我輩の断じて許さざるところなり」「婦人をして柔和忍辱の此頂上にまで至ら・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・「小説神髄」以来のことである。私たちのきょうの生活感情はそこから相当に遠く歩み出して来ている。「主従は三世」と云って、夫婦は二世、親子は一世と当時の社会を支配したものの便宜のために組立てられていた親子の愛の限界は、既に、どんな人間でも子の可・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・乙名島徳右衛門、草履取一人、槍持一人があとから続いた。主従四人である。城から打ち出す鉄砲が烈しいので、島が数馬の着ていた猩々緋の陣羽織の裾をつかんであとへ引いた。数馬は振り切って城の石垣に攀じ登る。島も是非なくついて登る。とうとう城内にはい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 松坂の目代にこの顛末を聞いた時、この坊主になった定右衛門の伜亀蔵が敵だと云うことに疑を挾むものは、主従三人の中に一人もなかった。宇平はすぐに四国へ尋ねに往こうと云った。しかし九郎右衛門がそれを止めて、四国へ渡ったかも知れぬと云うの・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 潮汲み女は足を駐めて、主従四人の群れを見渡した。そしてこう言った。「まあ、お気の毒な。あいにくなところで日が暮れますね。この土地には旅の人を留めて上げる所は一軒もありません」 女中が言った。「それは本当ですか。どうしてそんなに人気・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・徳川時代の主従関係のように個人的なものではなく、対国家の関係であった。これだけの相違が我々父子の間に存している。その事をまず小生は前記の手紙によって感じさせられたのである。 正直に言えば自分は、二十七日の事件を聞いたとき、自ら皇室を警衛・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫