ある婦人雑誌社の面会室。 主筆 でっぷり肥った四十前後の紳士。 堀川保吉 主筆の肥っているだけに痩せた上にも痩せて見える三十前後の、――ちょっと一口には形容出来ない。が、とにかく紳士と呼ぶのに躊躇することだけは事実・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・の玄関を飛び出した後、全然どこへどうしたか、判然しないと言わなければならぬ。 半三郎の失踪も彼の復活と同じように評判になったのは勿論である。しかし常子、マネエジャア、同僚、山井博士、「順天時報」の主筆等はいずれも彼の失踪を発狂のためと解・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
ある時、その頃金港堂の『都の花』の主筆をしていた山田美妙に会うと、開口一番「エライ人が出ましたよ!」と破顔した。 ドウいう人かと訊くと、それより数日前、突然依田学海翁を尋ねて来た書生があって、小説を作ったから序文を書いてくれといっ・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・すると間もなく大阪から鳥居君が来たので、主筆の池辺君が我々十余人を有楽町の倶楽部へ呼んで御馳走をしてくれた。余は新人の社員として、その時始めてわが社の重なる人と食卓を共にした。そのうちに長谷川君もいたのである。これが長谷川君でと紹介された時・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ デビスというのは、ご存知の方もありましょうが、私たちの派のまあ長老です、ビジテリアン月報の主筆で、今度の大祭では祭司長になった人であります。そこで、私たちは、俄かに元気がついて、まるで一息にその峠をかけ下りました。トルコ人たちは脚が長・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・を出すことにきめたが、新聞社主筆ミシャロフ少佐が、それを禁じた。理由をきくと次のように答えられた。「それは同人雑誌の形式です。ロシアにも以前、革命前にはありましたが、今はありません。芸術は社会のもので、個人のものでありません。同人雑誌は個人・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・なぜならこのごろ、日本のような稚い民主社会の編輯者たちでさえ、まさか社長や主筆の「友誼的」推薦原稿をそのままのせたりはしなくなっている。『星』に編輯会議はなかったのだろうか。『レーニングラード』編輯局はただ一人で構成されていたのだろうか。・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ レーニングラードの『労働婦人と農婦』は十五万部売って、レーニングラード『プラウダ』を経済的にもりたてている。 主筆が三十六七のギメレウスカヤだ。彼女には五つばかりの女の児がある。「チャンバレーン」という犬を飼っている。その児が云っ・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
福岡日日新聞の主筆猪股為治君は予が親戚の郷人である。予が九州に来てから、主筆はわざわざ我旅寓を訪われたので、予は共に世事を談じ、また間まま文学の事に及んだこともあった。主筆は多く欧羅巴の文章を読んで居て、地方の新聞記者中に・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫