・・・「何だい、今のは、あれは。」「久助って、寺爺やです。卵塔場で働いていて、休みのお茶のついでに、私をからかったんでしょう。子供だと思っている。おじさんがいらっしゃるのに、見さかいがない。馬鹿だよ。」「若いお前さんと、一緒にからかわ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・三 往来に雪解けの水蒸気の立つ暖かい日の午後、耕吉、老父、耕太郎、久助爺との四人が、久助爺の村に耕吉には恰好の空家があるというので、揃って家を出かけた。瀬音の高い川沿いの、松並木の断続した馬糞に汚れた雪路を一里ばかりも行った・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ ある晩、わい/\騒いでいる久助の女房は、伊三郎の家に火をつけた。が、それは、火事とならずにもみ消された。小作人も、はずされた仲間の方についた。伊三郎の田は、六月の植えつけから、その三分の二は耕されず雑草がはびこるまゝに荒らされだした。・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・さっきの第一教室の横を通り玄関を越え校長室と教員室の横を通ったそこが第三教室で、「第三学年 担任者武原久助」と書いてありました。さっきの茶いろの毛のガサガサした先生の教室なのです。狩猟の時間です。 私たちが入って行ったとき、先生も生徒も・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
出典:青空文庫