・・・紫檀の盆に九谷の茶器根来の菓子器、念入りの客なことは聞かなくとも解る。母も座におって茶を入れ直している。おとよは少し俯向きになって膝の上の手を見詰めている。平生顔の色など変える人ではないけれど、今日はさすがに包みかねて、顔に血の気が失せほと・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・棚や煖炉の上には粗製の漆器や九谷焼などが並べてある。中にはドイツ製の九谷まがいも交じっているようであった。 B氏は私の不審がっているのを面白そうに眺めるだけで、何の説明も与えてくれない。「まあ少し待ってくれ給え」と云っている。 奧の・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・あれを見ると自分はいつでもドイツで模造した九谷焼きを思い出す。 自分の専門に関係した科学の書籍をあさって歩く時の心持ちは一種特別なものである。まじめであると同時に at home といったような心持ちであるが、しかしそこには自分の頭にあ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ ○三太郎と云う猫がひろって育ててある。 ○九谷の茶碗が秘蔵である。 ○天井の竹竿には、下絵をつけた亀の子の絵が幾枚もかさねてかけてある。 ○大きな机には赤く古ぼけた毛氈がしいてある。竹の筆づつには、ほしかたまったのや、穂の・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
出典:青空文庫