・・・「それはまた乱暴至極ですな。」「職人の方は、大怪我をしたようです。それでも、近所の評判は、その丁稚の方が好いと云うのだから、不思議でしょう。そのほかまだその通町三丁目にも一つ、新麹町の二丁目にも一つ、それから、もう一つはどこでしたか・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・或る時は彼れを怒りっぽく、或る時は悒鬱に、或る時は乱暴に、或る時は機嫌よくした。その日の酒は勿論彼れを上機嫌にした。一緒に飲んでいるものが利害関係のないのも彼れには心置きがなかった。彼れは酔うままに大きな声で戯談口をきいた。そういう時の彼れ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・「甘いものを食べてさ、がりがり噛って、乱暴じゃないかねえ。」「うむ、これかい。」 と目を上ざまに細うして、下唇をぺろりと嘗めた。肩も脛も懐も、がさがさと袋を揺って、「こりゃ、何よ、何だぜ、あのう、己が嫁さんに遣ろうと思って、・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・「いや御馳走になって悪口いうなどは、ちと乱暴過ぎるかな。アハハハ」「折角でもないが、君に取って置いたんだから、褒めて食ってくれれば満足だ。沢山あるからそうよろしけば、盛にやってくれ給え」 少し力を入れて話をすると、今の岡村は在京・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・ まもなく、五、六人連れの乱暴者がやってきました。そして、いきなり、汚らしいふうをした哀れな子供をなぐりつけました。「おまえだろう、口笛を吹いて、夜中に、黒い鳥を呼んだりするのは? 火をつけたのも、おまえにちがいない。また、方々へ泥・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・「そんないい娘が、私のような乱暴者を亭主に持って、辛抱が出来るかしら」「それは私が引き受ける」と新造が横から引き取って、「一体その娘の死んだ親父というのが恐ろしい道楽者で自分一代にかなりの身上を奇麗に飲み潰してしまって、後には借金こ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・かなり乱暴な足音だった。 私はなぜかはっとした。女もいきなり泣きやんでしまった。急いで泪を拭ったりしている。二人とも妙に狼狽してしまったのだ。 障子があいて、男がやあ、とはいって来た。女がいるのを見て、あっと思ったらしかったが、すぐ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・斯う心の中に思いながら、彼が目下家を追い立てられているということ、今晩中に引越さないと三百が乱暴なことをするだろうが、どうかならぬものだろうかと云うようなことを、相手の同情をひくような調子で話した。「さあ……」と横井は小首を傾げて急に真・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 然るに全校の人気、校長教員を始め何百の生徒の人気は、温順しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・これではいけぬと思うより早く橋を渡り越して其突当りの小門の裾板に下駄を打当てた。乱暴ではあるが構いはしなかった。「トン、トン、トン」 蹴着けるに伴なって雪は巧く脱けて落ちた。左足の方は済んだ。今度は右のをと、左足を少し引いて、又・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
出典:青空文庫