・・・我が勇しき船頭は、波打際の崖をたよりに、お浪という、その美しき恋女房と、愛らしき乳児を残して、日ごとに、件の門の前なる細路へ、衝とその後姿、相対える猛獣の間に突立つよと見れば、直ちに海原に潜るよう、砂山を下りて浜に出て、たちまち荒海を漕ぎ分・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 農村の女の生活も実に辛苦に満ちていて、乳児の死亡率も多いし、トラホームなどもひどくはびこっている。経済的にゆとりのないことと、時間がないことが農村の女の向上を阻んでいるのだが、漁家の女が何とはなしその日暮しの生活の習慣に押しながされて・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・或るところは無料で、或るところは親の収入に準じた実費で七歳までの子供を保護し、食事、沐浴、初等の社会的訓練を与えてくれるのである。乳児のある母には三時間毎に授乳時間を与えられる。朝子供をつれて出勤し、退け時まで、女医と保姆の手もとにある子に・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ そして、一緒に建つ姙婦健康相談所で、プロレタリア婦人の避姙の相談にものり、産院で子を生ませてもらっても、とうてい育てられないほど困った時には、附属の乳児院の方で六ヵ月乃至一年間預り、または院外保育児として、里子に出し、その費用も同院で・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・ 事変になってから乳児の死亡率の高くなったことや若い母の流産死産のふえたことも、やはり人々の注意をひいたことであった。 婦人は社会的に働いても永続性がないからと、女性の能力の低さの一つとしていわれるけれども、この事の一面には、働かせ・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・一つには「乳児入口」、もう一つには「学齢以前児童」と札が出ている。 入って行くと、白い上っぱりを着て、頭も白い布でつつんだ姆母さんが出て来る。お客にも白い上っぱりを着せ、それから始めて内部を案内してくれる。托児所はキット一人の小児科医と・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 日本の女は一人たりとも自身たちの愚かさと、乳児死亡率の最高位であることで世界に冠絶したいとは願っていないのである。〔一九三七年八月〕 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
出典:青空文庫