・・・疫痢は乳離れをしない内には、――」Sさんは案外落ち着いていた。 自分はSさんの帰った後、毎日の仕事にとりかかった。それは「サンデイ毎日」の特別号に載せる小説だった。しかも原稿の締切りはあしたの朝に迫っていた。自分は気乗のしないのを、無理・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・笊の中には、乳離れをせぬ嬰児だ。火のつくように泣立てるのは道理である。ところで笊の目を潜らして、口から口へ哺めるのは――人間の方でもその計略だったのだから――いとも容易い。 だのに、餌を見せながら鳴き叫ばせつつ身を退いて飛廻るのは、あま・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・姪が連れていたのはまだ乳離れもしないほどの男の子であったが、すぐに末子に慣れて、汽車の中で抱かれたりその膝に乗ったりした。それほど私の娘も子供好きだ。その子は時々末子のそばを離れて、母のふところをさぐりに行った。「叔父さん、ごめんなさい・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫