・・・ 遠く亀戸方面を見渡して見ると、黒い水が漫々として大湖のごとくである。四方に浮いてる家棟は多くは軒以上を水に没している。なるほど洪水じゃなと嗟嘆せざるを得なかった。 亀戸には同業者が多い。まだ避難し得ない牛も多いと見え、そちこちに牛・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ ここに亀戸、押上、玉の井、堀切、鐘ヶ淵、四木から新宿、金町などへ行く乗合自動車が駐る。 暫く立って見ていると、玉の井へ行く車には二種あるらしい。一は市営乗合自動車、一は京成乗合自動車と、各その車の横腹に書いてある。市営の車は藍色、・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・ 菊塢の百花園は世人の知るが如く亀戸村の梅園に対して新梅荘と称せられていたが、梅は次第に枯死し、明治四十三年八月の水害を蒙ってから今は遂に一株をも存せぬようになった。水害の前の年、園中には尚数株の梅の残っていた頃である。花候の一日わたく・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・ 遂に決断して亀戸天神へ行く事にきめた。秀真格堂の二人は歩行いて往た。突きあたって左へ折れると平岡工場がある。こちらの草原にはげんげんが美しゅう咲いて居る。片隅の竹囲いの中には水溜があって鶩が飼うてある。 天神橋を渡ると道端に例の張・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・各地における朝鮮、中国労働者の虐殺。亀戸事件などは、人種的偏見と軍人・右翼の暴力に対する心からの憎悪をめざまさした。一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・腐敗した古い婦人団体の内部のこと、町の小さい印刷屋の光景、亀戸あたりの托児所の有様などいく分ひろがった社会的な場面をあやどりながら、何かを求めている女主人公朝子の姿が描かれている。朝子が何を求めているかということを朝子が知らないばかりでなく・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・年を護る 青少年工がこの頃の景気の中で、とかく誘惑に負け、その青春を蝕ばまれるのをふせぎ又指導するために、厚生省が産業報国の機関を動員して、優良会員数名ずつを行動隊に組織し、工場地帯、玉の井、亀戸その他の盛り場へ送り、危い一歩の手前・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・だから、よしんば個々の作品が、直接には亀戸の小さい紡績工場で闘争する女工だけを描いているとする、または九州の炭坑罷業を描いているとしても、その主題がはっきり資本主義第三期の世界経済恐慌との内国的関係において、プロレタリア・農民の政治的攻勢の・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・そして、遂に墨東、亀戸辺の私娼窟に出入することを書いたものである。 古典的筆致と現代私娼窟の女・情景とを荷風一流のデガ 昭和十二年五月には、農産品六九・二に対して、農村需要品は七五・三までになっている。そして、小作争議は十一年度五千・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫