・・・天智天皇と藤原鎌足のような君臣の一生的の結びは彼の漢の高祖や源頼朝などの君臣の例と比べて如何に美しく、乃木夫妻のようなのは夫婦の結びの亀鑑である。リープクネヒトとローザ・ルクセンブルグとのようなのは師弟と盟友の美しき例であろう。しかしながら・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、ひとを憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑、立派、立派、すこしは威張ったって、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・けれども、成功者すなわち世の手本と仰がれるように、失敗者もまた、われらの亀鑑とするに足ると言ったら叱られるであろうか。人の振り見てわが振り直せ、とかいう諺さえあるようではないか。この世に無用の長物は見当らぬ。いわんや、その性善にして、その志・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・和女とて一わたりは武芸をも習うたのに、近くは伊賀局なんどを亀鑑となされよ。人の噂にはいろいろの詐偽もまじわるものじゃ。軽々しく信ければ後に悔ゆることもあろうぞ」 言いきって母は返辞を待皃に忍藻の顔を見つめるので忍藻も仕方なさそうに、挨拶・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫