自然現象の科学的予報については、学者と世俗との間に意志の疎通を欠くため、往々に種々の物議を醸す事あり。また個々の場合における予報の可能の程度等に関しては、学者自身の間にも意見は必ずしも一定せざる事多し。左の一篇は、一般に予・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・これらの場合に充分な気象観測の材料が備わっていて優秀な気象学者がこれに拠って天候を的確に予報する事が出来れば如何に有利であるかは明らかである。 また一例を挙げると、三月十六日パレスタインで強風が砂塵を立てているに乗じてトルコの駱駝隊を襲・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・ 転向の原因、勢力消長の決定因子が徹底的に分らない限り、一時間後の予報は出来ても一昼夜後の情勢を的確に予報することは実は甚だ困難な状況にあるのである。 これらの根本的決定因子を知るには一体どこを捜せばよいかというと、それはおそらく颱・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・それから夜ごとに気を付けて見ていると果して天文雑誌にある予報の通りに光が変るという事実が子供の頭にどういう風に感ぜられたか、それは私には分らなかった。 空を眺めているうちに時々流星が飛んだ。私は流星の話をすると同時に、熱心な流星観測者が・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・正確な時日に予報出来ないまでも、もうそろそろ危ないと思ったら、もう少し前にそう云ってくれてもいいではないか、今まで黙っていて、災害のあった後に急にそんなことを云うのはひどい。」 すると、学者の方では「それはもう十年も二十年も前にとうに警・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・と云うが、そういう諸君の現在していることの予報がその『徒然草』にちゃんと明記してあるのである。 鼎をかぶって失敗した仁和寺の法師の物語は傑作であるが、現今でも頭に合わぬイズムの鼎をかぶって踊って、見物人をあっと云わせたのはいいが、あとで・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・いくら米国でもこの天象を禁止し排斥する事は出来ないので、その予報の手がかりを研究しているのである。 我邦におけるこれらの現象の記録は極めて少数であるらしい。しかし現象の性質上から通例狭い区域に短時間だけしか降らないものだとすれば、降るに・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ 津々浦々に海の幸をすなどる漁民や港から港を追う水夫船頭らもまた季節ことに日々の天候に対して敏感な観察者であり予報者でもある。彼らの中の古老は気象学者のまだ知らない空の色、風の息、雲のたたずまい、波のうねりの機微なる兆候に対して尖鋭な直・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・暴風や雷雨に対しては中央気象台に研究予報の機関が完備している。これらの設備の中にはいずれも最高の科学の精鋭を集めた基礎的研究機関を具備しているのである。しかるにまだ日本のどこにも一つの理化学的火災研究所のある話を聞いた覚えがないのである。・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ まず天気予報などがその一つである。これは今のところ一週間も前から予報を出す事は困難であり、またきのうの天気予報はきょうにとっては無意味であるから、どうしてもこれだけは日々に知らしてもらう必要がある。もっとも天気予報というもののほんとう・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫