・・・しかし今度襲われる地方がどの地方でそれが何月何日ごろに当たるであろうということを的確に予知することは今の地震学では到底不可能であるので、そのおかげで台湾島民は烈震が来れば必ずつぶれて、つぶれれば圧死する確率のきわめて大きいような泥土の家に安・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・この新聞記事を読んだ人は相当な人でも、あたかも「椿の花の落ち方を見て地震の予知ができる」と書いてあるかのような錯覚を起こす。そうして学者側の読者は「とんでもなく吹いたものだ」と言って笑うかおこるかである。ところでその記事をよくよく読んでみる・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・しかし方数十里の地域に起るべき大地震の期日を数年範囲の間に限定して予知し得るだけの科学的根拠が得られるか否かについては私は根本的の疑いを懐いているものである。 しかしこの事についてはかつて『現代之科学』誌上で詳しく論じた事があるから、今・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・この場合に起る地震の強弱の度を如何ほどまで予知し得べきか。単に糸を引き切る場合ならば簡単なれども、地殻のごとき場合には破壊の起り方には種々の等級あるべし。破壊がただ一回に終らず、数回の段階的変化によるとすれば、これらの推移中に歪みの変化は複・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それで年の豊凶を予察するには結局その年の七、八月における気温や日照の積分額を年の初めに予知することが出来れば少なくも大体の見当はつくということになる。 気温や日照を人為的に支配することは現在の科学の力では望むことが出来ない。しかし年の初・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・設立者としての政治家、出資者としての財団や実業家達が、二、三年か四、五年も研究すれば颱風の予知が完全に的確に出来るようになるものと思い込んでいるようなことがないとは云われないような気がするからである。 颱風に関する気象学者の研究はある意・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・その上に、いついかなる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである。もっともこうした天然の敵のためにこうむる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ それならばペンの目方を指定しその落下の状況を予知するには、単に緯度や高さや温度や気圧を知るのみならず全宇宙の現状を知悉する事が必要であろうか。力学物理学の教科書を繙いてみると極めて簡単な言葉で重力の方則や落体運動の方則が述べてある。吾・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・もしもその町内の親爺株の人の例えば三割でもが、そんな精密な地震予知の不可能だという現在の事実を確実に知っていたなら、そのような流言の卵は孵化らないで腐ってしまうだろう。これに反して、もしそういう流言が、有効に伝播したとしたら、どうだろう。そ・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・ 在学中の彼は試験官の銘々の癖をよく呑込んで、例えばトドハンター先生の出す問題を予知したりした。ある試験官は「ストラットの答案は多くの書物よりもいい」と云った。 一八六五年の正月に彼は遂に Senior Wrangler の栄冠を獲・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
出典:青空文庫