・・・だがね、人の行末というものは、実に予知らないものだねえ」と、小万がじッと吉里を見つめた眼には、少しは冷笑を含んでいるようであッた。「まアそんなもんさねえ」と、吉里は軽く受け、「小万さん、私しゃお前さんに頼みたいことがあるんだよ」「頼・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹の交番に警官は一人もいなかったという事実は何を物語るでしょうか。捜査のすすむにつれて三鷹の組合の副委員長をしている石井・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・この本のなかに予知されていたさまざまの障害と偽瞞とは、はっきり事実としての姿をあらわしはじめている。日本の婦人が、人民の生活の安定と平和とのために尽瘁しなければならない部面は日に日に多くなって来ている。 一九四七年十一月〔一九四・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・ 或る程度まで達するうちには、この無智な、狭小な魂の所有者である自分は、たくさんの苦痛と涙と、悔恨とに遭遇しなければならないのは、明かに予知されます。茫漠たる原野に、一粒ずつの金剛砂を求めて行くような労力と、収穫の著しい差異も、覚悟して・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫