・・・私の奉ずる神学はただ二言にして尽す。ただ一なるまことの神はいまし給う、それから神の摂理ははかるべからずと斯うである。これに賛せざる諸君よ、諸君は尚かの中世の煩瑣哲学の残骸を以てこの明るく楽しく流動止まざる一千九百二十年代の人心に臨まんとする・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 先生はそれを一寸見てそれから一言か二言質問をして、それから白墨でせなかに「及」とか「落」とか「同情及」とか「退校」とか書くのでした。 書かれる間学生はいかにもくすぐったそうに首をちぢめているのでした。書かれた学生は、いかにも気がか・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・わたくしはいろいろ話しかけて見ましたが、ロザーロはどうしてもかなしそうで一言か二言しか返事しませんので、わたくしはどうしてももっと立ち入ってファゼーロと二人のことに立ち入ることができませんでした。そしてこの前山羊をつかまえた所まで来ますと、・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・と云うとT子が時間がおそいからと云って私と二言三言云ったなり一人で先へ帰って仕舞った。 何だか馬鹿された様で止めもしなかった。 S子は私がたのんどいたものをわざわざ持って来て呉れた。 三十分ばかり話して、一寸私の書斎をの・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 二言三言私はようやっと呼ぶ事が出来た。けれ共何の返事も、まつ毛一つも動かさない眼を見た時又悲しさは私の心の中を荒れ廻っていかほどつとめても唇が徒に震える許りで声は出なかった。 母親は今朝はいろいろのまぼろしを見て、私が帰って来・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・そういうところに一言や二言で云いつくし現しつくせない若い精神の苦悩があるのではないだろうか。 この間安倍能成氏が一高の校長となったときの何かの談話で、現代の青年はさまざまの外面的な慰安を求める代り、友情に慰安を求めよ、という意味を云・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・告別式場の隅に佇んで、浄げな柩の方を猶も見守っていた時、久米さんが見え、二言三言立ちながら話した。 簡単な言葉であったが、私はその時今までのごたごたした心の拘りをすらりと抜け、自分がまともな心持で久米さんに物を云い、その顔を見たのを感じ・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・ 私達はせわしい中を大さわぎして会っても野原なんかに出かけて行ってよっかかりっこをしながら空を見て居て二言三言話したっきりで別れちゃう事だってあるんです。 でも妙なもんでそれでも満足するんです、 お互に。 篤はこんな事を・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 下島は二言三言伊織と言い合っているうちに、とうとうこう云う事を言った。「刀は御奉公のために大切な品だから、随分借財をして買っても好かろう。しかしそれに結構な拵をするのは贅沢だ。その上借財のある身分で刀の披露をしたり、月見をしたりするの・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・隣の間に鬚美しき男あり、あたりを憚らず声高に物語するを聞くに、二言三言の中に必ず県庁という。またそれがこの地のさだめかという代りに「それがこの鉱泉の憲法か」などいう癖あり。ある時はわが大学に在りしことを聞知りてか、学士博士などいう人々三文の・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫