・・・小さな門を中に入らなくとも、路から庭や座敷がすっかり見えて、篠竹の五、六本生えている下に、沈丁花の小さいのが二、三株咲いているが、そのそばには鉢植えの花ものが五つ六つだらしなく並べられてある。細君らしい二十五、六の女がかいがいしく襷掛けにな・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・また一日じゅうの時刻については「朝五つ時前、夕七つ時過ぎにはかけられない、多くは日盛りであるという」とある。 またこの出現するのにおのずから場所が定まっている傾向があり、たとえば一里塚のような所の例があげられている。 もう一つ参考に・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・そして兄たち夫婦の撫育のもとに、五つと三つになっていた。兄たち夫婦は、その孫たちの愛と、若夫婦のために、くっくと働いているようなものであった。 もちろん老夫婦と若夫婦は、ひととおりは幸福であった。桂三郎は実子より以上にも、兄たち夫婦に愛・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ と、呼ぶ声がきこえたときの嬉れしさったら、まるでボーッと顔がほてるくらいだ。 五つか六つ売れると、水もそれだけ減らしていいから、ウンと荷が軽くなる。気持もはずんでくる。ガンばってみんな売ってゆこうという気になる。「こんちはァ、・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・ 代を払って表へ出ると、門口の左側に、小判なりの桶が五つばかり並べてあって、その中に赤い金魚や、斑入の金魚や、痩せた金魚や、肥った金魚がたくさん入れてあった。そうして金魚売がその後にいた。金魚売は自分の前に並べた金魚を見つめたまま、頬杖・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ だいたい今まで中学が少な過ぎたために、県で立てたのが二つ、その当時、衆議院議員選挙の猛烈な競争があったが、一人の立候補が、石炭色の巨万の金を投じて、ほとんどありとあらゆる村に中学を寄付したその数が五つ。 こんなわけで、今まで七人も一・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・自分はこの時五つか六つの子供に返りたいような心持がした。そして母に手を引かれて歩行いて居る処でありたかった。そして両側の提灯に眼を奪われてあちこちと見廻して居るので度々石につまずいて転ぼうとするのを母に扶けられるという事でありたかった。そし・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。「ここへ畑起してもいいかあ。」「いいぞお。」森が一斉にこたえました。 み・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・眼鏡は、鼻に当るところに真綿が巻きつけてある。五つ年下の植村婆さんは、耳の遠い沢やに、大きな声で悠くり訊いた。「いよいよ行ぐかね?」 沢や婆は、さも草臥れたように其に答えず、「やっとせ」と上り框に腰を下した。そして、がさがさ・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・それでも四つに一つ、五つに一つは子猿の口にも入る。 母猿は争いはする。しかし芋がたまさか子猿の口に這入っても子猿を窘めはしない。本能は存外醜悪でない。 箸のすばしこい本能の人は娘の親ではない。親でないのに、たまさか箸の運動に娘が成功・・・ 森鴎外 「牛鍋」
出典:青空文庫