・・・それを、暫くしてから、漸く本間定五郎と云う小拾人が、御番所から下部屋へ来る途中で発見した。そこで、すぐに御徒目付へ知らせる。御徒目付からは、御徒組頭久下善兵衛、御徒目付土田半右衛門、菰田仁右衛門、などが駈けつける。――殿中では忽ち、蜂の巣を・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・あの藤吉や五郎助を見なさい。百姓なんどつまらないって飛び出したはよいけど、あのざまを見なさい」 省作がそりゃあんまりだ、藤吉の野郎や五郎助といっしょにするのはひどい、というのを耳にもとめずに台所の方へいってしまった。 冷ややかな空気・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・甲州にいた時、朋輩と一緒に五郎、十郎をやったの」「さぞこの尻が大きかっただろう、ね」うしろからぶつと、「よして頂戴よ、お茶を引く、わ」と、僕の手を払った。「お前が役者になる気なら、僕が十分周旋してやらア」「どこへ、本郷座? ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・俳優のうちに久米五郎とて稀なる美男まじれりちょう噂島の娘らが間に高しとききぬ、いかにと若者姉妹に向かっていえば二人は顔赤らめ、老婦は大声に笑いぬ。源叔父は櫓こぎつつ眼を遠き方にのみ注ぎて、ここにも浮世の笑声高きを空耳に聞き、一言も雑えず。・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・彼の弟が二人あって、二人とも彼の兄、逃亡した兄に似て手に合わない突飛物、一人を五郎といい、一人を荒雄という、五郎は正作が横浜の会社に出たと聞くや、国元を飛びだして、東京に来た。正作は五郎のために、所々奔走してあるいは商店に入れ、あるいは学僕・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・、谷峨という作者の書いたものや、振鷺亭などという人の書いたものを見ますれば、左母二郎くさい、イヤな男が、むしろ讃称され敬愛される的となって篇中に現われて居るのを発見するのでありまして、谷峨の描きました五郎などという男を、引き伸ばしの写真機械・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・曾我廼家五郎とか、また何とかいう映画女優などが、よくそんな言葉を使っている。どんなことをするのか見当もつかないけれども、とにかく、「勉強いたして居ります。」とさかんに神妙がっている様子である。彼等には、それでよいのかも知れない。すべて、生活・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・諷刺文芸編輯部、五郎、合掌。」 月日。「お手紙さしあげます。べつに申しあげることもないのでペンもしぶりますが読んでいただければ、うれしいと思います。自分勝手なことで大へんはずかしく思いますがおゆるしください。御記憶がうすくなって・・・ 太宰治 「虚構の春」
頭の禿げた善良そうな記者君が何度も来て、書け書け、と頭の汗を拭きながらおっしゃるので、書きます。 佐倉宗五郎子別れの場、という芝居があります。ととさまえのう、と泣いて慕う子を振り切って、宗五郎は吹雪の中へ走って消えます・・・ 太宰治 「政治家と家庭」
・・・しかし、なおよくその代表のお方の打ち明けたお話を承ってみますと、このたびの教育会には、あの有名な社会思想家の小鹿五郎様がその疎開先のA市からおいでになって、何やら新しい思想に就いて講演をなさる、というご予定でございましたそうで、ところが運わ・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫