・・・ところが源三と小学からの仲好朋友であったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹同様の交情であったので、我が親かったものの甥でしかも我が娘の仲好しである源三が、始終履歴の汚れ臭い女に酷い目に合わされているのを見て同情に堪えずにいた上、ちょうど・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・との秘めたる交情も、不逞の私の、虚構である。それは、私に於ては、ゆるがぬ真実ではあっても、「葛原勾当日記」原本に於ては、必ずしも、事実で無い。はっきりした言いかたをするなら、それは、作家の、ひとりよがりの、早合点に過ぎぬだろう。けれども私は・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・天下の男子は陽性なるが故に、陽は昼にして明なり、万事万端に通じて内外の執務に適し、殊に人倫の道に明にして品行最も正しく、内君に対して交情最も濃なりと言うか。果して然らんには甘んじて之に従い之に謀る可しと雖も、今の世間の風潮に於ては其保証頗る・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ あるいは一人と一人との私交なれば、近く接して交情をまっとうするの例もなきに非ざれども、その人、相集まりて種族を成し、この種族と、かの種族と相交わるにいたりては、此彼遠く離れて精神を局外に置き遠方より視察するに非ざれば、他の真情を判断し・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・旧説は両性の関係を律するに専ら形式を以てせんとし、我輩は人生の天然に従て其交情を全うせんとするものなれば、所謂儒流の故老輩が百千年来形式の習慣に養われて恰も第二の性を成し、男尊女卑の陋習に安んじて遂に悟ることを知らざるも固より其処なり、文明・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・就中彼らは耶蘇教の人なるが故に、己れの宗旨に同じからざる者を見れば、千百の吟味詮索は差置き、一概にこれを外教人と称して、何となく嫌悪の情を含み、これがために双方の交情を妨ぐること多きは、誠に残念なる次第にして、我輩は常にその弁明に怠らず。日・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫