・・・ 男女交際と素人、玄人 日本では青年男女の交際の機会が非常に限られていることは不便なことだ。そのためにレディとの交際が出来難く、触れ合う女性は喫茶ガールや、ダンサーや、すべて水稼業に近い雰囲気のものになるというこ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・内の人の身分が好くなり、交際が上って来るにつけ、わたしが足らぬ、つり合い足らぬと他の人達に思われ云われはせぬかという女気の案じがなくも無いので、自分の事かしらんとまたちょっと疑ったが、どうもそうでも無いらしい。 定まって晩酌を取るという・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・地方の人の信用は旦那の身に集まるばかりであった。交際も広く、金廻りもよく、おまけに人並すぐれて唄う声のすずしい旦那は次第に茶屋酒を飲み慣れて、土地の芸者と関係するようになった。旦那が自分の知らない子の父となったと聞いた時は、おげんは復たかと・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・中には、世間並の交際などは出来ない者として噂する者さえありました。バニカンタは、何不自由ない暮をし、毎日二度ずつも魚のカレーを食べられる程だったので、彼を憎んでいる者が、決して無いではなかったのです。段々、妻やその他女の人達が喧しく云い出し・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ ばかに自分の事ばかり書きすぎたようにも思うが、しかし、作家が他の作家の作品の解説をするに当り、殊にその作家同士が、ほとんど親戚同士みたいな近い交際をしている場合、甚だ微妙な、それこそ飛石伝いにひょいひょい飛んで、庭のやわらかな苔を踏ま・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・この店の給仕頭は多年文士に交際しているので、人物の鑑識が上手になって、まだ鬚の生えない高等学校の生徒を相して、「あなたはきっと晩年のギョオテのような爛熟した作をお出しになる」なんぞと云うのだが、この給仕頭の炬の如き眼光を以て見ても、チルナウ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ ドイツに居た時は、どういうものかいつも心持が緊張し過ぎて困った。交際した学生でも下宿の婆さんでも皆それぞれに緊張していた。他の国を旅行して帰りにドイツの国境を超えると同時に、この緊張がいつも著しく眼についた、すべてのものがカイゼルの髭・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・「――よろしく、ご交際、おねがいします」 深水がたもとから煙草をだして点けた。三吉もその火で吸いつけようとするが、手がふるえていて、うまく点かない。点かないながら――ゴコウサイ――というのが、どきんと頭にのこっている。「まず、こ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 唯不幸にして自分は現代の政治家と交らなかったためまだ一度もあの貸座敷然たる松本楼に登る機会がなかったが、しかし交際と称する浮世の義理は自分にも炎天にフロックコオトをつけさせ帝国ホテルや精養軒や交詢社の階段を昇降させた。有楽座帝国劇場歌・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・随って彼の交際する範囲は三四十代の壮者に限られて居るのである。以前奉公して居た頃も稀には若い衆に跟いて夜遊びに出ることもあった。彼も他人のするように手拭かぶって跟いて行った。帰る時にはぽさぽさとして独であった。若い衆はみんな自分の女を見つけ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫