・・・ブダペストへ参ってからも、わたくしはあなたと御交際を続けて行きました時も、まだ御主人がどんな方だか知らなかったのですね。 女。ええ。 男。そのころある日の事ですが、あなたはわたくしに写真を一枚お見せになりましたね。それがすばらしい好・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・「そうかてお前、実の所は組が引きとらんならんのやして、お前とこが母屋や云うたて、そんなこと昔から云うてるだけで、何も特別と安次とこと交際してたわけでもなしさ。うちかて株内や云うたてはっきりしたことって何一つないのやし、組が引取らんならん・・・ 横光利一 「南北」
・・・友情は愛ではなくてただ退屈しのぎの交際であった。関係はただ自分の興味を刺戟し得る範囲に留まっていた。愛の眼を以て見れば弱点に気づいてもそれを刺そうという気は起らないが、嘲りの眼を以て見れば弱点をピンで刺し留めるのが唯一の興味である。それ故人・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫