(一しょに大学を出た親しい友だちの一人に、ある夏の午後京浜電車の中で遇 この間、社の用でYへ行った時の話だ。向うで宴会を開いて、僕を招待してくれた事がある。何しろYの事だから、床の間には石版摺りの乃木大将の掛物がかかって・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・ そのために東京、横浜、横須賀以下、東京湾の入口に近い千葉県の海岸、京浜間、相模の海岸、それから、伊豆の、相模なだに対面した海岸全たいから箱根地方へかけて、少くて四寸以上のゆれ巾、六寸の波動の大震動が来たのです。それが手引となって、東京・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 具体的の例を挙ぐれば、東京市民にとりては「明日正午まで京浜地方西北の風晴」と云い、あるいは「本日午後驟雨模様あり」というがごときは多数の世人に有用有意義なり。またもし「一週間内に東海道の大部分に降雨あるべし」との予報をなし得たりとせば・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・次に、又京浜が来て、私どもは、揉み込まれた。 上野へ来た。「降りますよウ」「降せ! 降せったら……」 大騒動になった。しかし、エンジンの工合が損じ、ドアは開かないまま、上野を出てしまった。 鶯谷へついたとき、人々はせき立・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・従って、文学における自然の範囲は、街頭、公園、近郊に多くとどまっており、あるいは通俗小説の場面としては落すことのできない近代スポーツの背景として北国の雪景、またはドライヴの描写としての京浜国道がとり入れられ、いずれにせよ、大部分享楽的消費的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ ねえお母様、お京さんはやっぱり大森がいやだって、もう二日したら帰るんだって云ってよこしたんです、雨が止まなくちゃあ困る。 京浜電車と市街電車で長い間揺られなければならないのに降りこめられては何かにつけて困るだろうなんかと思・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫