・・・又男女席を同うせず云々とて古の礼を示したるも甚だ宜しけれども、人事繁多の今の文明世界に於て、果して此古礼を実行す可きや否や、一考す可き所のものなり。是れも所謂言葉の采配、又売物の掛直同様にして、斯くまでに厳しく警めたらば少しは注意する者もあ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・人あるいはこの諸件の変革を見て、その原因を王政維新の一挙に帰し、政府をもって人事百般の源となし、その心事の目的を政府の一方に定めて、他をかえりみざる者多しといえども、余輩の考には政府もまた、ただ人事の一部分にして、その旧政府を改めて新政府を・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ されば曙覧が歌の材料として取り来るものは多く自己周囲の活人事活風光にして、題を設けて詠みし腐れ花、腐れ月に非ず。こは『志濃夫廼舎歌集』を見る者のまず感ずるところなるべし。彼は自己の貧苦を詠めり、彼は自己の主義を詠めり。亡き親を想いては・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・のごとし。一事一物を画き添えざるも絵となるべき点において、蕪村の句は蕪村以前の句よりもさらに客観的なり。人事的美 天然は簡単なり。人事は複雑なり。天然は沈黙し人事は活動す。簡単なるものにつきて美を求むるは易く、複雑な・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・みなの衆、他人事ではないぞよ。よくよく自らの胸にたずねて見なされ。夜陰とは夜のくらやみじゃ。以てとは、これに乗じてというがようの意味じゃ。夜のくらやみに乗じてと、斯うじゃ。小禽の家に至る。小禽とは、雀、山雀、四十雀、ひわ、百舌、みそさざい、・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・見ると、イ警第三二五六号 聴取の要有之本日午後三時本警察署人事係まで出頭致され度し一九二七年六月廿九日第十八等官レオーノ・キュースト殿とあったのです。 ああ、あのデストゥパーゴのことだな、これはおもしろい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・と云ったと云うのをきいたりすると、いくらしっかりして居ると云ったって二十前の息子が他人の家で病う気持が思いやられて、娘は、他人事でない様な、只書生の云う事だと云いきってしまわれない様な深い思いやりが湧いた。 進みも退きもしない容・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・良人をころし、父を失わさせたのは非人間の権力人事そのものであった。国鉄の名もない被整理従業員たちのだれかれの一家の、妻や子や年よりのおどろき、怨み、歎きとその本質は一つもちがうところのない恐慌が、故人の一家をおそったであろうという想像も許さ・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・それだけ、今ごろ標札のかわりに色紙を欲しがる青年の戯れに実感がこもり、梶には、他人事ではない直接的な繋がりを身に感じた。当時の悩みの種が意外なところへ落ちていて、いつの間にかそこで葉を伸ばしていたのである。彼は一日も早く栖方に会ってみたくな・・・ 横光利一 「微笑」
・・・といっているごとく、彼の体験より出たものであるが、その中で最も目につくのは、伝統や因襲からの解放である。人事については家柄に頼らず、一々の人の器用忠節を見きわめて任用すべきことを力説している。戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫